外資系企業人事部長の部下へ宛てたHR Letter「グローバル企業での働きかた」 第16話 日本とグローバル化1-日本独自論

第16話 日本とグローバル化1-日本独自論

稲盛和夫さんはご存じのとおり、京セラの創業者であり、破たんした日本航空を見事に再生された、カリスマ経営者です。そのような方が以下のようなブログを書かれていることに深く考えさせられました。賛否はともかく、様々な経験をされた中でグローバル化に寄せた日本の立ち位置に対する有能
な経営者の見解であることは事実です。

私たちはグローバル企業の一員として働いています。その中で、日々のビジネスがすごいスピードで動いていることを強く感じます。グローバル社会で生きている以上、我々はグローバルで通用するロジックやカルチャー、習慣を身につけなくてはなりません。

一方で、日本に生まれた、日本人としてのもう一つの存在は、稲盛さんが述べられたような将来の国のアイデンティティを今、模索しています。期しくも金曜日には「終戦記念日」もやってきます。これからの日本の進むべき道について思いをはせるのにはよいタイミングかもしれません。

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「強い国より気品のある国に」稲盛和夫氏の経営者ブログより
日経新聞 電子版

日本経済はようやく長いトンネルから抜け出しましたが、「経済大国の夢よ、もう一度」という考え方は時代錯誤です。21世紀に入って新興国の台頭が著しく、世界は将来ますます多極化します。その中で日本は何をよりどころにして生きて行くべきでしょうか。

私は日本人に本来備わっている美点を見いだすことから始めるべきだと考えています。手前みそと思われるかもしれませんが、日本人は世界的に見ても素晴らしい気質をもった国民です。総じて真面目で努力家ですから、たとえ世界をリードする巨大な成果につながらなくても、技術開発を含めてものづくりにおいては、これからも力を出して行けるとみています。
 
しかし少子化による人口減少と高齢化によって、国力の低下が懸念されています。経済力でみた世界における地位は相対的に落ちて行くと予想されます。今までのように世界から注目される大きな強い国ではなくなるかもしれません。私はそれでもよいと思っています。自然に逆らってまで、強さを求めるのは、果たして正しいことなのか。人口が減るから移民を積極的に入れようという意見は短絡的です。私は外国から来られる方々を歓迎すべきだと考えていますが、自分たちの人的パワーを補うために移民を考えるのは、いかがなものかと思います。

それよりも日本は、きれいな心、美しい心を持つ人々が暮らす何と素晴らしい国なのかと、世界の人たちから認められる方が大切です。思い出すのは、江戸時代の末から明治にかけて、欧米からやって来た人たちが、日本人の礼儀正しく正直な態度に驚いていることです。物質的には貧しいが、素朴で心優しい、道徳的にも西洋をしのぐ人々が平和に暮らしている日本について、欧米人がいろいろ書き残しています。小泉八雲と名乗って帰化したラフカディオ・ハーンは、古き日本の素晴らしさを愛して、それを著作によって欧米に伝えてくれました。

今の日本も、かくありたいものです。それは誰が来ても、日本人は美しい立派な精神性を持っていると感じてくれる国です。経済的にも軍事的にもそんなに強くはないけれど、それでも冒しがたい気品を持った、外国の人たちがみな尊敬せざるを得ないような国となることです。
 
しかし日本の近代史をひもとけば、身のほど知らずに欧米の物まねをして失敗した例をみつけられます。その最たるものが戦争です。明治維新以降、植民地を支配する欧米列強を横目で見て、それに負けまいと、侵略のまねごとをしました。朝鮮や中国に進出して植民地化を進め、どんどん手を広げて最後に木っ端みじんになりました。
 
欧米諸国は古くから世界を股にかけて侵略して、広大な植民地を作り、武力で他民族を従わせて召使に対する主人のように振る舞ってきました。四つの島を中心にこぢんまりと暮らしていた日本人は、欧米人のような激しい気性ではありません。心根が優しいので、欧米のまねをしたら、とんでもない結果になったのです。

直近では、バブル経済の最盛期に、欧米の不動産などを買いあさって大失敗しました。ニューヨークのマンハッタンの中心部のビルを買うなど派手にやりましたが、今やほとんど残っていない。京セラが拠点を持つ米国西海岸のサンディエゴでも、商社が立派なホテルを建てましたが、いくらもたたないうちに売却して撤退しています。
 
当時、日本の土地をすべて売れば、そのカネで米国全土を買えるというバカげた話が出るほど、浮かれていました。しかし不動産は買えても欧米人を使いこなせません。あちらの人たちは植民地の経験がありますから、おカネや様々な仕掛けによって、どうすれば人をうまく働かすことができるか、よく知っています。その一番の手段が成果主義です。お前たちが頑張って成果を上げたら、これだけ報酬をやろうと、目の玉が飛び出るようなおカネを外国人にも出します。
 
日本人には、そういうどぎつい方法は使えません。欧米人のように、人をドライに扱えない日本人には、ホテルなどをいきなり買っても経営できやしないのです。バブルの時の失敗によって、日本人の向き不向きが証明されたと思います。
 
これからはやはり日本人が本来持っている良さを追求して行けばよいのです。物質的な豊かさも大事ですが、尊敬を勝ち得るには徳義に富む気品のある国になることです。強さを重視する人には、非常に弱々しい消極的な考え方に思えるかもしれませんが、それしか日本の生きる道はないと、私は思います。

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