外資系企業人事部長の部下へ宛てたHR Letter「グローバル企業での働きかた」 第12話 グローバル企業の給与の決め方

第12話 グローバル企業の給与の決め方

一般的に、日本企業では年齢と勤続、格付けに対
応した標準賃金テーブルがあり、このテーブルの見直しが組合と経営陣との交渉事項となります。春闘とはこの交渉のことを指します。ベースアップ、つまりテーブル基本額のアップが主な争点になるわけです。

そもそもベースアップとは、同じ年齢、勤続、格付けでも基準額があがるということです。つまり年功序列型賃金のベースをなす考え方です。要約すると、日本的給与システムとは、人事評価はありますが「テーブルに沿って勤続と年齢で平均的に給与アップするシステム」といえます。

一方、グローバル企業の場合はどうでしょうか? グローバル企業の給与は「業績やビジネス環境を重視するシステム」といえます。グローバル企業では、まず事業計画の中に占める人件費の割合をどうするかという発想から始まります。つまり人件費を総額で前年に対して何%アップすべきなのかということから考えるわけです。

そのため、まず会社業績を押さえ、更に経済指標である物価指数がどう動いたのかやマーケット情報つまり、競合他社がどのくらいの昇給原資を見込んでいるかということを検討します。

加えて、グローバル企業の給与で大事なことは、個人レベルで考えたときに「その人の市場価値と現在の賃金がマッチしているか」ということです。つまり、あるポジションについて、ふさわしい賃金はいくらなのか? ということが最も重要です。もしも、現在賃金がそのポジションの市場価値よりも低い場合、その人は他社の同じようなポジションでより高い給与をもらうことができるので、企業側としては転職されるリスクが高まります。

一方、現在賃金がそのポジションの市場価値よりも高い場合、その人の評価は常に標準に対して低くなります。もし業績が悪くなれば、まずは賃金、次に雇用自体の見直し対象になります。従って、マネージャーはこのような問題を抱えないよう、部下の処遇に対してジャストフィットな賃金を決めることに細心の注意を払う必要があります。

外資の給与は勤続・年齢は関係ありません。同じ仕事をしていれば、周辺環境が変わらない限り賃金は上がらないかもしれません。より高い給与を望むなら、ポジションアップを目指す必要があります。あるいは、転職によって自分の給与が市場的にもっと高く評価されることを証明することになります。

本来、日本の企業も外資も同じマーケットで競争している以上、同じレベルの仕事は同じレベルの給与であるべきです。しかしながら以上のような思想の違いは個々の賃金設定において違いを生じさせます。

どちらが正しいと一概には言えませんが、私はグローバル企業の考え方により共感を持っています。なぜなら企業は厳しい競争の中に生きており、平等の概念は時として企業の利益、ひいてはその存続そのものに影響を与えます。中期的に適正な賃金水準を維持している方が、最終的には会社全体の適正なコストの配分を可能にします。

もちろん、賃金は社員のモチベーションに大きな影響を与えるため、個人格差はあってもフェアであること、納得性が重要であること、はいうまでもありません。


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