マガジンのカバー画像

ブックレビュー

7
運営しているクリエイター

#ミステリ

矢樹純『妻は忘れない』(新潮文庫)

 地に足の着いたミステリ短篇集。
 作者が女性なので全ての物語に「妻」「母」「娘」「妹」「姉」などが登場し、語り手も女性である。大がかりな殺人トリックなどはなく、日常生活での謎が主題で、このリアリティは、読者が経験を積んだ女性なら身につまされることも多いのではないかと感じた。
 ただ一篇、ちょうどまんなかに収録されている「裂けた繭」だけは毛色が違う、かなり暴力的であり、エッヂの効いた短篇なので注意

もっとみる

フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(創元推理文庫)

 11の短篇が収録されているが、いわゆる「ミステリ=謎」を扱っておらず個人的には「犯罪小説集」と感じた。謎解き要素があるのは「サマータイム」くらいだろうか。作者は「なぜ夫は妻を、姉は弟を殺さなければならなかったのか」という経緯にこそ注目している。
 シーラッハはドイツの作家で実際に弁護士であり、報告書のような淡々とした文章がむしろ陰惨さを際立たせる。リアリティに富んでいるため当然のように残酷描写や

もっとみる

鈴木悦夫『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』(中公文庫)

…あー。書いてみようと思ったんですが、長篇ミステリのレビューって、めちゃくちゃ難しいんですね。「1989年の作品で」「あの有名な」「フーダニットというよりは」と書いただけでもなんか読み了えた自分としては「それは全部ネタバレかもよ!」という気がしてしまう。なので感想は「面白かったのでぜひ読んでください」としよう。ジュブナイルとして書かれているのですらすら読めます。
ちなみにこの文庫を購入される場合は

もっとみる