フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』(創元推理文庫)

 11の短篇が収録されているが、いわゆる「ミステリ=謎」を扱っておらず個人的には「犯罪小説集」と感じた。謎解き要素があるのは「サマータイム」くらいだろうか。作者は「なぜ夫は妻を、姉は弟を殺さなければならなかったのか」という経緯にこそ注目している。
 シーラッハはドイツの作家で実際に弁護士であり、報告書のような淡々とした文章がむしろ陰惨さを際立たせる。リアリティに富んでいるため当然のように残酷描写や暴力表現が多出するので苦手な方はご注意。浮世離れしたミステリより地に足の着いたドキュメンタリーやノンフィクションが好きな方にお勧め。2012年に本屋大賞1位を受賞しているので面白さは保証付き、ぼく自身こういった「現代社会や現実の事件を扱った小説」をふだん手にとらないのにこの短編集はすこぶる興味深く読んだ。「正当防衛」のリドルストーリー的な読後感が好み。

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