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世界一周307日

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2011年3月10日。ひとりの旅行作家が全く新しいシステムによる世界一周の旅をスタートさせた。巡る先はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オセアニアの世界6大陸。『SUGO…
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2020年12月の記事一覧

note88: パペーテ(2011.12.3)

【連載小説 88/100】 >>> Iaorana(イアオラナ)!ようこそ“NoaNoa(かぐわしい香り)の島”へ。 長旅のお疲れはございませんか? いや、この美しい海と空につつまれた島に降り立ち、ティアレやジャスミン、ジンジャーなど甘い香りを放つ色とりどりの花をご覧になれば日本から背負ってきた疲れなど一気に消え去ってしまうでしょう。 この世に「楽園」と呼ばれる島は数あれど、100以上の小さな島々が星屑のごとく散らばるこの国こそが過密な文明社会に暮らす人々にとっての真の楽園

note89: パペーテ(2011.12.6)

【連載小説 89/100】 ゴーギャンの“壮絶な人生”を追う旅を提案しているのだから、まずはその生涯を紹介しておこう。 タヒチを舞台とする名作絵画で有名なポール・ゴーギャンだが、1848年にパリで生まれた彼の元の職業が株式仲買人、つまり証券会社に務めるサラリーマンだったことを知る人は少ないだろう。 デンマーク出身の妻と5人の子どもに恵まれたごく平凡なビジネスマンのゴーギャンは絵画を好み、展覧会に出品してはいたものの当時は趣味の領域の活動でしかなかった。 そんな彼が画業

note90: パペーテ(2011.12.11)

【連載小説 90/100】 ゴーギャン終焉の地、マルケサス諸島のヒバ・オア島に滞在している。 首都パペーテのあるタヒチ島から1300kmの距離はエアー・タヒチのプロペラ機で約3時間。 空からのアプローチで驚いたのは、訪問者を寄せ付けないかのごとき荒々しい島々の存在だった。 寒流が流れるこの海域の島の周囲には珊瑚が育たないため、3日前までいたソシエテ諸島のようにラグーンに囲まれた穏やかなリゾート風情はなく、海面から直接切り立つ断崖絶壁の島が並ぶのだ。 ハワイでいえばワイ

note91: パペーテ(2011.12.14)

【連載小説 91/100】 『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』 1897年に貧困と絶望の中でゴーギャンが完成させたあまりにも有名な代表作は彼が西洋文明に向けて発した精神的な遺言だと言われている。 ボストン美術館が所蔵する縦139.1 cm 横 374.6 cmの壁画のごとき作品が2009年に東京国立近代美術館で日本初公開された際、僕は現物を見る機会を得た。 本人が遺言を意識して創作した作品だけあって、画家ゴーギャンの絵画表現の集大成であるこ

note92: オークランド(2011.12.17)

【連載小説 92/100】 「生まれ変わるとしたら次はどんな職に就きたい?」と問われたなら、僕は迷わず今の仕事である“トラベルライター”と答える。 旅を愛する者としてこれほど面白い仕事はないし、この先死ぬまでこの仕事を続けたとしても、行ってみたい土地や再訪したい場所は無数に残るだろうからだ。 ただし、生まれ変わる先が過去であれば話は別だ。 もし18世紀に生まれるなら、僕は迷うことなく“海洋探検家”になって世界中を旅する道を選ぶ。 そう記して脳裏に浮かべている歴史上の人

note93: ロトルア(2011.12.20)

【連載小説 93/100】 1769年10月8日。 ジェームズ・クックは西洋人として初めてニュージーランドに上陸した。 場所はニュージーランド北島の北東部にあるギズボーン。 オークランドを基点とするスペシャルツアー最初の訪問地は、記念すべきクックの初上陸記地にするべきだと考え、一昨日クックの銅像が建つ現地を訪れてきた。 このギズボーンという街が観光で紹介されることは少ないが、先住民族のマオリ語の地名「Turanga-nui-a-Kiwa」はマオリ神話に登場する海の守護

note94: クライストチャーチ(2011.12.23)

【連載小説 94/100】 前々回、ジェームズ・クックの「エンデバー号」をはじめとするいにしえの海洋探検船の名前がスペースシャトルに引き継がれていることに触れたが、太平洋に漕ぎ出して誰も知らない新大陸を目指した西洋冒険家がようやく発見した島で出会った先住民の存在とその驚きを現代におきかえるとどうなるか? その存在の可能性は別として、宇宙飛行士が火星人や金星人と遭遇することに等しいのではないだろうか。 「そんな馬鹿な」と一笑に付されるかもしれないが、想像力を働かせてもらい

note95: クライストチャーチ(2011.12.25)

【連載小説 95/100】 クライストチャーチの滞在は3日間と短かったが、その美しい街並みは充分堪能することができた。 特に気に入ったのはホテルからすぐの場所にあるビクトリア広場。 朝夕の散歩を楽しんだが、中央に川が流れ、噴水や花時計が並ぶのどかな空間は心落ち着きお薦めである。 そして公園にはビクトリア女王とジェームズ・クックの像が建っていた。 前回レポートしたマオリの悲史から見れば“征服者”と“第一侵略者”となる人物の像が世界中から集まる観光客をもてなしているとこ

note96: シドニー(2011.12.28)

【連載小説 96/100】 1769年に西洋人としてニュージーランド初上陸を果たしたジェームズ・クックは航海を続け、翌1770年にオーストラリアへ到達した。 記録によると最初にオーストラリア大陸に上陸したのはオランダ人探検家で、1606年とクックよりも1世紀半以上前にさかのぼる。 ただし、上陸したのが大陸北部の熱帯地域で、探索の結果この大陸が植民地に向かないと判断したオランダは同地に入植しなかったため、クックが指揮したエンデバー号による大陸東海岸への到達とその後の領有宣

note97: シドニー(2011.12.31)

【連載小説 97/100】 旅人としてその空間にいるだけで幸福になれるような場所にはなかなか出会えるものではないが、僕にとってシドニー湾はその中のひとつ。 「フォトジェニックな街」とでも言えばいいのだろうか、この界隈で写真を撮ると、とにかく“絵になる”のだ。 まずはシドニーのランドマークであるオペラハウス。 帆を広げた巨大なヨットのごとき独創的な外観の建物は1973年の完成で、2007年に世界遺産に登録されている。 写真を撮るなら青空がバックの昼間はもちろん、白い屋根