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note97: シドニー(2011.12.31)

【連載小説 97/100】

旅人としてその空間にいるだけで幸福になれるような場所にはなかなか出会えるものではないが、僕にとってシドニー湾はその中のひとつ。

「フォトジェニックな街」とでも言えばいいのだろうか、この界隈で写真を撮ると、とにかく“絵になる”のだ。

まずはシドニーのランドマークであるオペラハウス。
帆を広げた巨大なヨットのごとき独創的な外観の建物は1973年の完成で、2007年に世界遺産に登録されている。

写真を撮るなら青空がバックの昼間はもちろん、白い屋根がオレンジ色に染まる夕暮れ時やライトアップされる夜も美しい。

そんなオペラハウスのある「サーキュラーキー」というエリアは、どこを撮影しても“水の都”としてフレームの中に納まりがよい。

フェリーターミナルは鉄道駅に直結していて、ツーリストにとっての観光拠点であると同時にシドニー在住者の海上通勤の要衝で、各種フェリーやクルーズ船が次々と出入りする。

北に向かってU字型の湾は下(南)の部分が船着き場で、向かって右手(東)がオペラハウスのある半島、左手(西)が「ロックス」と呼ばれる歴史的街並み地区になっているから、少し遠景でオペラハウスを撮影したいならロックス側を訪れるのがお薦めだ。

そのロックスでは歴史的建造物の数々を撮影してほしい。
イギリスによる最初の植民地が1788年にこの地に誕生したことを前回レポートしたが、今も当時の建築物が保護されて残っている。

建物内部は改装されてカフェやパブ、ショップ、ギャラリーなどになっていて人気のエリアでもある。

いわばシドニーの原型とでもいうべきこのオールドタウンを北へ移動すると、対岸のノース・シドニーに向けて架かる全長1500mのハーバーブリッジが見えてくる。
オペラハウスと並んでメディアによく登場するアーチ橋を見たことがある人は多いだろう。

そんなサーキュラーキーの西裏手側にあるのが「ダーリングハーバー」だ。
1980年代に開発された比較的新しいこのエリアはショッピング&レストラン街であると同時にシドニー水族館やワイルド・ライフ・ワールド(動物園)が並ぶ一大観光ゾーンである。

その中でも注目したいのがオーストラリア国立海事博物館(Australian National Maritime Museum)。

ジェームズ・クックの発見から現代に至るオーストラリアの海洋史を様々なテーマで展示する見応えのあるミュージアムで、湾にはエンデバー号のレプリカが係留されている。

船の中に入ることもできて、クックになりきって往事のキャプテン気分を味わうという意味では、僕がプランするスペシャルツアーのクライマックスといってもいいスポットなのである。

さて、今日は12月31日の大晦日。
世界中からこのイベントを目指してツーリストが集まる花火大会の日である。

ベストスポットはサーキュラーキーで、既に交通規制で車の立ち入りは禁止となり、朝から陣取りをしている人も多いらしい。

僕もそろそろホテルを出て2011年の終わりとニューイヤーを祝う祭り見物に出かけることにしよう。

ところで、1年のしめくくりに続いて僕にとっては長旅をしめくくる時がやってきた。
帰国スケジュールが以下のメールのように決定したのだ。

>>>>>message/2011.12.30-20:00<<<<<

真名哲也さま

10ヶ月に及ぶ「SUGO6」の旅もいよいよ残り僅かとなりました。
帰国のフライトが以下のように決定しましたのでご連絡させていただきます。

1/10:Jetstar Airways【JQ25便】(13:20ケアンズ発・20:00成田着)

なお、成田空港では弊社スタッフがお出迎えをさせていただきます。
また都内までの送迎サービスをご準備しておりますのでご利用ください。

>>>>>SUGO6 Support Desk<<<<<

“帰国準備”といっても、荷物は最低限のものしか持ち歩いていないし土産の品々があるわけでもないから、残り10日間が特にこれまでの日々と変わることはない。

ただ、明後日移動する最終訪問地ケアンズでは今回の旅を自分の中で総括する作業は必要だと考えている。

徒然に重ねてきたこのレポートにはどんなエピローグが相応しいのだろう?

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年12月31日にアップされたものです

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