note95: クライストチャーチ(2011.12.25)
【連載小説 95/100】
クライストチャーチの滞在は3日間と短かったが、その美しい街並みは充分堪能することができた。
特に気に入ったのはホテルからすぐの場所にあるビクトリア広場。
朝夕の散歩を楽しんだが、中央に川が流れ、噴水や花時計が並ぶのどかな空間は心落ち着きお薦めである。
そして公園にはビクトリア女王とジェームズ・クックの像が建っていた。
前回レポートしたマオリの悲史から見れば“征服者”と“第一侵略者”となる人物の像が世界中から集まる観光客をもてなしているところに少し複雑な気分もしたが、その思いも近くのカンタベリー博物館を訪れて変わった。
ネオ・ゴシック建築の趣のあるミュージアムに展示されていたのは奥深いマオリの文化とヨーロッパからの移民の歴史、加えて南極探検に関する資料と巨鳥モアや国鳥キーウィなど希少鳥類の剥製群。
歴史には光と影があり、そこに勝者と敗者はつきものだが、博物館にはそれらが事実として“等価”に展示されているのがいい。
時計の針を戻すことはできないが、時計の針が刻んできた悠久の“時”を知る権利とチャンスはミュージアムという極めて文明的なシステムによって世界中に点在している。
“旅を重ねる”僕たちは、それらの場所で“現在”から“歴史”を俯瞰し、さらには“未来”を思い描くことができるのだ。
世界一周の旅を重ねれば、文明史とは西洋による他者への侵略と征服の歴史であることが明らかなものとして見えてくるが、過去を精算して民族・文化融合をはかろうとする未来志向を感じることもできる。
そう、ニュージーランドを訪ねるツーリストは奥深いマオリの文化に尊敬の念をもって接することができるように…
「全てがあって今がある」
僕にとっての座右の銘であるこの言葉を改めて思い知るオセアニアの旅である。
さて、“偉大な人物の生涯を視座に世界や歴史を再見する”人物紀行のジェームズ・クック編はここで前編が終了し、次はオーストラリアへと舞台を移す。
今から空港に向かいシドニーを目指し、8日間滞在しニューイヤーを同地で迎えた後、最後の訪問地となるケアンズへ移動する予定だ。
利用するのはLCC(ローコストキャリア)として注目を集めるJetstar社で、「バスに乗る感覚で国々の間を転々と移動する」と喩えられるようにクライストチャーチ→シドニー→ケアンズの区間を片道単位でブッキングした。
ここで僕は「太平洋を探検しオセアニアの国々と西洋社会をつないだジェームズ・クックが現代に蘇ってこのエアラインに搭乗したら?」と、いつものように想像する。
おそらく、自らの探検の時代から僅か2世紀半の時間で文明がここまで栄えたことに賞賛の拍手をくれるだろう。
だが、一方でその利便性と快適性にふれるにつれて、もはや失われてしまった“生命を賭した冒険”に郷愁を感じるのではないかとも思われる。
先達の“開拓”によって、僕たちは世界中どこへでも旅立てるチャンスを得たが、誰も知らない“未知なる”土地を探す浪漫を求めることはできない。
それ故に“旅”の途上に生まれる“感動”という内なる“未知との遭遇”を求めて日々を重ねていくのだ。
※この作品はネット小説として2011年12月25日にアップされたものです
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