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note92: オークランド(2011.12.17)

【連載小説 92/100】

「生まれ変わるとしたら次はどんな職に就きたい?」と問われたなら、僕は迷わず今の仕事である“トラベルライター”と答える。

旅を愛する者としてこれほど面白い仕事はないし、この先死ぬまでこの仕事を続けたとしても、行ってみたい土地や再訪したい場所は無数に残るだろうからだ。

ただし、生まれ変わる先が過去であれば話は別だ。
もし18世紀に生まれるなら、僕は迷うことなく“海洋探検家”になって世界中を旅する道を選ぶ。

そう記して脳裏に浮かべている歴史上の人物がジェームズ・クック。

世界がまだひとつにつながっていなかった当時、3度の航海を通じて太平洋に様々な島を発見し西洋社会に紹介した、通称“キャプテン・クック”の名前なら誰でも知っているだろう。

“偉大な人物の生涯を視座に世界や歴史を再見する”人物紀行。
オセアニアを舞台に企画する「SUGO6」スペシャルツアーの第2弾で僕が取り上げるのは、このジェームズ・クックである。

1728年英国生まれのクックは10代で石炭を運ぶ商船の船員となり、20代後半で英国海軍の水兵として七年戦争に加わった後、船乗りとしての能力を発揮し頭角を表す。
そして、軍艦の航海長としての成功や海図の測量実績が認められ1766年に海軍と王立協会からの命を受け、軍艦エンデバー号を指揮し1768年に3年に及ぶ第1回目の太平洋航海に出ることになる。

実はこの航海にはふたつの目的があって、ひとつ目は「金星と太陽の距離を算出する」という科学的調査。
金星が地球と太陽のちょうど間に入る「日面通過」という天文現象を観察する場所としてタヒチが選ばれたらしい。

そして、もうひとつの目的が南太平洋探索。
18世紀当時、世界の陸地の全てはまだ明らかにされておらず、南極を中心に南半球の大部分を占める仮説上の大陸「メガラニカ」があるとされていた。

西洋諸国はこの未知なる大陸発見を競っていたが、優秀な探検家クックを得た王立協会が彼にそのミッションを与え、英国軍艦「エンデバー号」を託したというわけである。

記録によると、この探索ミッション部は他国を出し抜く狙いもあって、クックがタヒチから現在のニュージーランド海域を目指すことを乗組員に伝えたのは天体観測後だったらしく、まさに極秘指令だったのである。

ところで「エンデバー号」といえばスペースシャトルの名前としても有名だが、この偉大な探検家ジェームズ・クックにちなんで名付けられたものだ。

エンデバー号だけでなく「コロンビア号」や「チャレンジャー号」「ディスカバリー号」など、歴代スペースシャトルの名前には偉業を成した海洋探検船にあやかったものが多い。

いつの時代も未知なる場所を目指す冒険心が文明社会に刺激を与えてくれる。18世紀を生きたクックの眼差しを現代に置き換えるなら、それは火星や金星といった未知なる星々の世界を見上げる浪漫に通じるということだ。

ゴーギャンツアーは文明社会に背を向ける旅の追体験だったが、そこから1世紀時代をさかのぼるクックのスペシャルツアーは未知なる太平洋にポジティブな文明化を求めた男の軌跡を追う旅である。

ニュージーランド北島の都市オークランドから旅をスタートさせよう。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年12月17日にアップされたものです

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