一人旅が「鏡」だとしたら
一人旅が好き、なんて言いながら、ちょっと情けない話なのだけど、一人旅をしていると、たまにこんなことがある。
夜、夕食を食べるために、街へ出る。
スマホでお店を検索することもあれば、街中をふらふら歩きながらお店を探すこともある。そうして、美味しい料理が食べられそうで、雰囲気も良くて、ここならきっと間違いないと思えるお店を見つける。
しかし、そのお店の前まで行くと、僕はぱたりと足を止めてしまう。
なんとなく、一人でお店へ入ることに躊躇してしまうからだ。
理由はいろいろで、お洒落すぎて入りづらく感じることもあれば、地元のお客さんが多そうで入りづらいこともある。
そんなふうに、一人旅をしていると、一人では入りにくいタイプのお店に行き当たってしまうことがある。
お店の入口から店内をそーっと覗いてみるけれど、やっぱり僕一人では入りにくく感じる。
いつまでもお店の前で立ってるのも怪しいので、一旦そこから離れて、僕は歩きながら考える。
どうしよう。勇気を出して、あのお店へ入ってみようか……。
旅行へ来たからには、いいお店でご飯を食べたい。あのお店へ入れば、美味しいものを食べられて、忘れられない旅の思い出になるはずだ。今から他のお店を探すのは大変だし、いいお店はもう見つからないかもしれない……。
そんなことを考えながら、お店の近くを一人歩き回る。2ブロックくらいぐるりと歩いて、またお店の前に戻ってくることもある。
思い切って入ってみたい。でも、どうしても勇気がない。
そこで、スマホでGoogleマップを開いて、お店の写真やクチコミを見てみる。
お店の評価も高いし、クチコミも悪くない。だけど写真を見ると、なんだか一人ではちょっと浮いてしまう感じがする……。
ますます迷ってくる。この街を訪れることは、もうしばらくはないかもしれない。だったら、気になるお店へ入った方がいいに決まってる。やらなかった後悔よりもやった後悔の方が云々って言うじゃないか。さあ、思い切って入ってみよう。
そして、僕は再びお店の中を覗いてから、よしっ、と決心する。
やっぱり、もうちょっと入りやすいお店を探すことにしよう、と。
何かに負けてしまったような気分に落ち込みながら、夜道を一人とぼとぼと歩いて、他のお店を探し始める。
やがて行き当たるのは、一人でも入りやすい観光客向けのお店だったり、フードコートやファーストフード店だったりする。
そうしてようやく夕食を食べながら、あのお店だったらもっと素敵な時間を過ごせただろうなぁ……と、自分の不甲斐なさに少し悲しみを覚える。
わかってるのだ。たとえ一人だって、勇気を出してお店に入ってしまえば、なんてことはないことも。思い切って入ってみることで、初めて出会える世界があることも。
わかってるのに、それができない。
そんな夜に出会うことが、一人旅ではいまだにある。
一人旅というものは、自分自身を映し出す「鏡」なんだと思ってる。
自分の強さや逞しさを映し出すこともあれば、自分の弱さや情けなさを映し出すこともある。
偽りもなければ、飾りもない、本当の自分を映し出すのが一人旅だ。
一人で旅してるというと、すごく勇気のある人間みたいに思われがちだけど、実際はそんなことはない。
何十回と一人旅をしてきた今でも、旅に出る前夜は不安に襲われたりするし、旅をしながら一人ぼっちの寂しさに包まれたりすることもある。
自分の勇気のなさ、不甲斐なさに落ち込むことなんて、当たり前のように何度もある。
でも、と思うのだ。
一人旅のそんなところが、僕は好きなんだと。
なぜなら、普段はどこかごまかしながら生きている、自分の弱さや情けなさと、正直に向き合うことができるからだ。
もちろん、向き合ったからといって、その弱さや情けなさが変わるわけではない。
けれど、そうした自分のネガティブな側面を、素直に受け入れ、認めてあげることができる。
そんな弱さや情けなさも、自分の一部なんだと。
もしも一人旅が、自分の良いところだけを映し出すものだったら、こんなにも心惹かれはしなかっただろう。
自分のすべてをありのままに映し出してくれるから、一人旅に心惹かれてしまうのだ。
今の自分自身をただ見つめることができる、純粋な「鏡」として。
一人でお店へ入る勇気がなかった僕は、フードコートやファーストフードのお店で夕食を食べながら、少し悲しみを覚える。
でも同時に、不思議な心地よさも感じるのだ。
誰かに良く見せるわけでもなく、頑張りすぎるわけでもなく、ただ自分に素直に生きることの、確かな心地よさを。
そして食べ終わる頃には、まあいっか、という気持ちになっている。
勇気はないし、不甲斐ないかもしれない。だけど、それが自分なのだ。
自分の弱さや情けなさを、否定するのではなく、肯定してあげること。
一人旅が「鏡」だとしたら、それに映る自分の姿は、いつだって美しい素顔なのだから。
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