「ひとり旅って寂しくないの?」と聞かれたら
「ひとり旅って寂しくないの?」とたまに聞かれる。
……まったく寂しくない、と言ったら嘘になる。
ひとり旅をしていれば、寂しいなと思うことだって、たまにはある。
でも。
その寂しさは、僕にとって、不思議と心地良いのだ。
「寂しい」という言葉には、とても不幸なイメージがある。
でも、ひとり旅で味わう寂しさは、不幸な寂しさではなく、幸せな寂しさなのだ。
たとえば、夕暮れどき、異国の街をひとりで歩いているとき。
ああ、自分はいま、たったひとりで見知らぬ街に来てるんだな、と思う。
その瞬間、心の奥底から、寂しさが湧き出てくる。
だけど、その寂しさが、とても気持ちいい。
なぜなら、その寂しさこそが、自由になれたことの証だから。
あるいは、夜遅く、言葉の通じないレストランでひとり食事をとっているとき。
この街には、自分を知っている人なんて誰もいないんだ、とふと気づく。
それもまた、寂しさに包まれていく瞬間のひとつだ。
でも同時に、僕の心は、幸せでも包まれていく。
それはたぶん、誰にも自分が縛られていないことの幸せなんだと思う。
……人は社会の中で生きているかぎり、本当の意味で「ひとり」になることって、あまりない。
家族だったり、友人だったり、仕事仲間だったり、常に誰かと接点をもっているからだ。
けれど、ひとり旅に出たとき、そこには誰もいない。
すべての接点から解き放たれて、たったひとりで、異国の地を旅していくことになる。
それは確かに、ちょっと寂しいことかもしれない。
だけど同時に、日常の中で縛られていたものから解放される「自由」を味わえる。
寂しいからこそ自由だし、ひとりだからこそ、自分自身を真正面から見つめ直すことができる。
普段は心の奥に隠れている「素顔の自分」が溢れ出し、心が身軽になっていく。
きっとそれが、ひとり旅で味わえる、「幸せな寂しさ」なんだと思う。
「ひとり旅って寂しくないの?」と聞かれたら、僕ならこう答える。
「ちょっと寂しい。でも、とっても幸せ」と。
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