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巨人の肩の上に乗った巨人【ニュートン】

明けましておめでとうございます。今年のテーマは「続」なので、今年も自分のペースで少しずつ発信を続けていけたらいいなと思います。

2020年最初に扱う人物は、科学界の伝説アイザック・ニュートンです。彼は物理学に革命を起こしました。


神を揺るがしたニュートンの発見

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彼の生涯で注目すべきは、1665年6月からの1年半です。彼の不滅の業績である運動方程式の確立、万有引力の発見、微分積分法の開発などをそのわずかな期間で成し遂げました。25歳の時です。「驚異の1年半」と呼ばれています。

その中でも特筆すべきは、物体の落下という身近な現象をニュートンが初めて解き明かしたことです。それが万有引力です。そして、この万有引力は質量を持つあらゆる物体同士の間で働いていることから天体の運動まで統一的に理解できる様になりました。

それにより、あらゆる物質の動きを理論を用いて説明できることができました。この証拠に使ったのが、当時では説明できていなかった天文学者ケプラーの観測結果です。このことで天界の実像が明らかになり、すべて計算で導けるようになったのです。

これはそれまで聖域とされていた領域に大きく踏み込むものでした。
さらに、過去から未来にわたるまですべての時間での速度と場所が、理論上は計算できるようになったことを意味しています。
つまり、初期条件さえ分かってしまえば、未来が予見できてしまうのです。
三田一郎著『科学者はなぜ神を信じるのか』でも、それまでの数々の科学者との違いについて下記の様に述べられています。

ニュートンの発見は質的に違っていました。ニュートン力学によって神は「天界」という聖域を侵され、「天体の運行」という秘儀を失い、そして「全知全能」という絶対的な権威までも揺るがされることになったのです。

ニュートンは当時の科学の常識を大きく打ち破ったのです。

ニュートンの運動法則
第1法則(慣性の法則)
外からの力が加わらない限り、物体は静止または運動状態を維持する。例えば、回転しているボールは摩擦の影響がなければ、回転し続ける。
第2法則(運動方程式)
物体にはたらく力は、その質量と加速度の積である。
F=ma
第3法則(作用反作用の法則)
すべての作用には同じ大きさの反作用が存在する。

コペルニクス・モデル

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ニュートンの世紀の発見は素晴らしいですが、ケプラー等のそれまでの科学者の存在無しには成し得なかったとも言われています。

ガリレオの最大のライバルであり、天才天文学者のヨハネス・ケプラー。
彼の功績はコペルニクスの地動説を数学的に証明して見せたことです。

彼は、大学時代に出会ったコペルニクス・モデルに魅了されます。いわゆる太陽がすべての中心にあるという考え方です。

ちなみに実は、コペルニクスが当時における革命的な考えである「地動説」を打ち出したのではありません。それまでにも太陽を中心とする考え方は存在していました。あくまで先人の業績を発展させたに過ぎません。
最初に「地球は宇宙の中心ではない」という考えを打ち出したのはピタゴラス派です。しかし、その後アリストテレスが否定することでこの宇宙モデルの考えは無くなります。
そして、自分達の立つ大地を世界の中心と考える天動説が中心的になっていきます。それを「理性」としてもちだしたのが神学者トマス・アクイナスです。彼が目指したのは信仰と理性の一致であり、神の存在を「科学」によって証明しようとしたのです。天動説が神の存在証明であるとされ、教会にとっては、正当性を主張するのに大いに役立ちました。
アリストテレスの天動説がキリスト教公認の宇宙観となり、同時に地動説は異教とみなされるようになっていきます。
(この一連の流れもどこかのタイミングでnoteに詳しくまとめます)

コペルニクスのモデルは惑星の公転軌道を完全な円にしています。(実際は楕円)実際は違うものを無理やり円で証明しようとするため、周転円を用いるなど、当然内容がとても複雑になってしまいました。

周転円とは
惑星は地球を公転しながら小さな回転運動もしているという考え

これは、あくまで彼が、惑星の運動は神が支配していると考えていたことが影響しています。神が創った運動なのだから、完全無欠な円であろうという論理です。

コペルニクスやガリレオは「純粋な」神への思い・神が何を意図して創ったのかを知りたかったため、研究を重ね、当時の教会が説く神の教えに疑問を投げかけていきます。ただ神の存在自体は信じ続けていたことは確かです。

しかし、その後の「巨人」たちの発見が結果として、本人の意図とは別に、神の存在そのものに対しても疑問を投げかけることになります。その1人がケプラーです。

世紀の大発見の基礎を作ったケプラー

ケプラーはコペルニクスの宇宙モデルの複雑さを1つ1つ検証していきました。惑星の軌道が太陽の中心からずれていることの是非、惑星の速度の一様性、周回軌道の基本的な形などです。師匠ティコ・ブラーエが残した21年間に及ぶ膨大な資料も参考に何年もかけて研究していきます。
その中で火星の動きを楕円形にしたところ、あらゆることがうまくいき、それは他の惑星にも同じことが言えました。そのことから次の3つの法則を導き出します。

ケプラーの惑星運動に関する3法則
(A)惑星は、太陽を1つの焦点とする楕円軌道上を動く(中心ではない)
(B)惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に描く面積は、一定である。したがって、惑星の公転速度は変化する。
(C)惑星の公転周期Pは軌道の大きさAに関連する。Pの2乗は、軌道の長半径aの3乗に比例する。このことは、太陽から遠い惑星ほど公転周期が長いことを示している。

それまでわかっていなかった惑星が「いかに動くのか」に対する、神の存在を揺るがす様な革命的な答えを導き出したのです。

ケプラーとニュートンが信じた神

ただケプラーは宗教的なことに懐疑的だったというわけでは全くありません。彼の本当の夢は、宣教師として布教活動をすることでした。
彼の天文学の集大成となる『宇宙の調和』は、祈りで始まり、祈りで終わります。
あくまで彼にとって自らの研究は神に捧げるものであることが、彼の言葉から分かります。

〈科学の最終目的は、人間を神に近づかせることである〉
〈天文学者は自然の聖書をもとに、神に仕える牧師である〉
〈幾何学は唯一永遠の学問であり、神の考えを写す鏡である〉
〈私は神学者になりたかった。だが私の発見により天文学を通して神に栄光が与えられた〉

彼はただ神の意志に、より近づきたかったのでしょう。
だからこそ、自らの発見を踏まえ、神をどう捉えるのか、心の揺れ動きがあったのかもしれません。超越的な力の存在を信じていたのですから。


その75年後、太陽系を支配する力学を解き明かしたニュートンがその意思を引き継ぐことになり、万有引力などの発見につながっていきます。

そして、そんなニュートンも熱心なキリスト教信者だったことが知られています。

プリンキピアの一節
〈美しい天体は知性を備えた協力な実力者の意図と、統一的な制御があって初めて存在するようになったのである。…神は永遠であって、無限なお方だ〉

彼にとってはこれだけの科学の常識を打ち破る様な発見をしても、そうであるならば、そもそもの運動方程式を作ったのは誰か、宇宙の初期条件を創ったのは誰かという風に考え方が代わるのみだったのです。
他人との闘争や確執が絶えなかったというニュートンにとっても、神は信じるに値する絶対的な存在だったのかもしれません。

巨人は巨人の肩の上に乗る

ニュートンの万有引力は、ケプラーの〈惑星が楕円を描いて動く〉ということが「なぜ」起こるのかを説明しました。

「宇宙は丸い形をしていて、その中心には地球がある」
これが古代ギリシャ人の間で長らく支持されてきた考えでした。それを変えたのは、天文学者たちの「神業」と言えるほどの正確な観測記録だったのです。確かに宇宙の真実に近づいていったと言えます。

ニュートンは長年因縁のあったフックにある手紙を送った際に、この言葉を贈っています。

「わたしが遠くまで見通すことが出来たとすれば、それは巨人の肩に乗せてもらっていたからです。」


ケプラーとニュートン達の発見は、後の天才・アインシュタイン達につながっていきます。
ニュートンも巨人となりその肩には新たな巨人が乗り、それは現在まで連綿と続いています。いつかその肩は宇宙の正体に届くはずです。


過去の歴史や過去の偉人、今の目まぐるしく変わる時代に過去を学ぶ必要なんかないというかもしれません。
でもやっぱり僕たちは先人たちが気づきあげたものの上にしか成り立たないからこそ、そのことを噛み締めながら、学び続けるべきです。これからも少しずつ偉人たちの残した功績に触れていきたいと思います。

「わたしが遠くまで見通すことが出来たとすれば、それは巨人の肩に乗せてもらっていたからです。」



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