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詩集:どこにもいけない

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行き場もなく日々わだかまる言葉達は、詩の中以外はどこにも行けない
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2017年9月の記事一覧

詩:黄色い朝

雨粒が爆ぜたら未分化な黄色い光が広がって黄ばんだ朝がやってくる

広がった光が止めても止めても押し寄せてきて
隠れても隠れても気づいたら後ろにいるから
もうどこにもいけなくなってしまって灰色の海に浮かんでいるような朝、朝

始まりを聴きながら緑色のまどろみの中に墜落するから
全部溶けてなくなるよ、ぜんぶ、ぜんぶ
だからそれまでに私に追いついて

すべてがなくなってこの冷えた土の上が一体どこだか分か

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詩:青い公園

美しくぬかるむ泥の上

吸い込まれる革の靴

青いピーコートひるがえり

半分だけの白い月

水に沈むニレ科のけやき

旋回するひくい鳥

その低空のさざめきを

ウォークマン、聴きながら見る

詩:その星は

光線のように降り注ぐ雨の中

内臓の溶ける音を聴けよ

埃が空気を切り裂く微かなヘルツ

反響し合う寄る辺ない夜に

見た事のない種類の鯨を見よ

深刻な場所としての木星の海では

計り知れない粘土の風がすべてを平らにしていて

大嫌いな瞬間の基軸の中で

ゼリーのような命が揺れている

全てが透明な植物性プランクトンのようになって

今、精巧なステンドグラスの怪獣が

こなごなになるようなその音

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詩:そこにしかいない君へ

その言葉はやわらかい種類の液体のように黒い海の境界をたゆたっていて 

そこで生まれ関節の数をたがえた雪は記憶となりやがてついえた

ここにいようと笑う君の皮膚の裏で崩れる骨のその音は

いつかの原始の水を温め流れだした調和の中で

忘れられない悲鳴を時間の外に閉じ込めるのだろう

「泡を吐いた夢を見るよ」

「君を見てるとなんだかすごい悲しいんだ」

「笑いながら手を振るからみていてね」

そう

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詩:低体温の恋

詩:低体温の恋

光をすう雨粒が 刹那 点となる

点となった白い光 せつな 線を引いて切ない

あふれだす気持ち 無駄に 流すという無駄を

イアフォンで 耳 ふさいで 冷たく暗い音に沈める

かかとから溶けるよ ほら かかとから

落ちるよ 固く ぬれた 地面で

ゆれる 空気に 冷えた みらいは

今も 見えるよ 赤い 海辺

さびた においと なみだ こらえて

あのね 最後に たべて ゆびから

詩:真夜中、ひとり

詩:真夜中、ひとり

散らばる虹色の、油膜のような残像

機械のような冷たい眠り

呼吸のせつな、乾いた血の混ざる

人工灯の洪水、その粒立ちまであわあわと

細かい音の波、目を閉じてもなお入り込む

電磁波の群れ、しきりに何かを温めようと彷徨う

闇に浮かぶ黄色いクラゲ、剥がされた爪のよう

ひとひらの羽虫、一日と命が持たない

一人になれない寂しさ、私から生きる力を奪うその夜に

私は弱さの中にとどまることをここに

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詩:雑踏

詩:雑踏

朝に夕に思いつのらせたまま
それでも澱のようにたまったそれらは
私の体の中で無意味に発熱し
体温を無秩序におかしくするばかり
何もかもを滞らせたまま
心と体は切り離され
切り取られたそれとの距離

見失ってしまうのは何よりも怖いねって

ねぇ怖いねって

いろんな人が事あるごとに
肩を叩いて教えてくれる

ねぇ信じて

決めた場所まで走り出しなさいってあなたは言うけど
私は生まれつき足が重いから

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