見出し画像

五歳にかかる重圧 (運動会にて)

約3メートル程のリードで最終バトンを受けた。
一番恐れていた展開。相手の白組アンカーはクラス最速男児リョウマ君。
――どうなる五歳息子っ!?

秋晴れの保育園運動会。
会場となる小学校体育館脇の木々が心地良く香る。


木犀や子らの「ソーラン」幾重にも

(もくせいやこらのそーらんいくえにも)

季語(仲秋): 木犀、金木犀、銀木犀

最初のソーラン節に感動してたら、もう最終種目になった。(体感的にね)
年長組の紅白リレーは園の伝統行事。
先生らが苦心したという組分けのバランスが功を奏し、最初から抜きつ抜かれつ。見てるこっちはハラハラ。
紅組が若干リードでアンカー勝負に至るのも織り込み済みか。

声援を背に息子がスタートダッシュ。第1、第2コーナーを無難にこなしバックストレート。ただリードは僅か1メートル。
リョウマ君の息遣いがすぐ背後に迫る。

朝、近所に住む彼と息子は一緒に手を繋いで会場に向かった。
普段は大の仲良し。
「今日のリレーは負けないぞ」
軽口のリョウマ君と何も返せない息子。緊張度合いは歴然か。

第3コーナーで背中につかれた。さらに内側から抜きにかかる。
悟った息子はインを死守して侵入を許さない。どちらも必死。

リョウマ君の母親がぼそり告白してくれた言葉が蘇る。
「練習で負けた日は夜ずっと泣いてて……」
彼もまた重圧を感じ闘っていた。チーム戦は五(六)歳には重いよな。

第4コーナー。私の目前。
少し膨らんだ息子は内側を許す。(表題写真)
ええい、勢い直線勝負へ。長身のリョウマ君はストライドを生かし、息子は前に転がり込むようにゴールテープへ。

!! 背面の私から決着は見えない。
ゴール前の担任がマイクを持つ。固唾を呑んだ。
「紅、と白の勝負は……」
感極まって言葉に詰まる先生。え? どっち?

「初めての、引き分けです!」

歓喜と安堵に包まれる会場。私も胸をなでおろす。
瞬間! 
今走り終えた二人が抱き合って跳びはねる姿が目に入り、涙腺崩壊した。
二人だけの世界。戦い終えた親友同士だけの境地があった。


引分けに抱き合ふ好敵手よ天高し

(ひきわけにだきあうともよてんたかし)

季語(三秋): 秋高し、天高し、空高し

閉会後、担任が話してくれた。
「彼なら任せられると思ったんです。誰より気持ちの強い子だから」

息子……


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?