『今日もあなたへ鍋を振る』
店主は家族を見て微笑んだ。ご夫婦と六歳位の坊や。毎月食べに来てくれる。今月は仕事納めの時かな、の予想は的中した。
気付くのが遅れたのは定番の「お子様チャーハンセット」が注文になかったから。代わりに普通の「餃チャーセット」になっていた。坊やの成長に顔が綻ぶ。
声を掛けようとして躊躇した。珍しく家族に笑顔がない。
店主は聞き耳を立てた。
「今日で辞めちゃうお友達がいたんだって」
奥さんの横でしょぼんとする坊や。
「また会えるよ」と旦那さんが励ます。
「パパもね……知ってる人が亡くなっちゃって、ずっと落ち込んでたんだ」
詮索は憚られ、店主は厨房へ戻った。
こんなとき一つのモットーを呟く。
「精一杯、鍋を振る。食は悲しみを除くことは出来なくても、彼らを元気づけることが出来る」
会計時。家族にはいつもの笑顔が。
テーブルには全て食べ尽くされた皿。なんと坊やも食べ切った様子。
「良いお年を――」
店主は厨房から一段大きな声をかけた。
逝く年や奇麗に食べし中華皿
(ゆくとしやきれいにたべしちゅうかざら)
※日記を小説風に表現しています__🖋
帰りは「♪ もういくつ寝るとお正月~」を家族合唱して歩きました。夜道は冷たかったけど、ほっこりの帰路。
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