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右耳用AirPodsProの行き先は右手の中にいるよ

ぬわんと曇っている空。
マスク姿の人々も折り畳みの傘も。
いつもの夏らしくないなーと、似合う曲を探し聞きながらトボトボ歩いていたら・・・

向こうから歩いてくるアッシュグレーに髪染めたはじめしゃちょーみたいな可愛い男の子が手をあげてながら私の方に近づいてきた。

手のあげ方は『はいセンセー!』という真っ直ぐ挙手ってやつ。
ウォーキング挙手方式。

へ?? と思いながらも右耳のヘッドホンだけをはずし
「どしたの?」と私。

近くで見るはじめしゃちょー(似)は顔が小さく背が高く肌が綺麗で
意外にも目が潤っていた。いや、うるうるしていた。

私がきた方向を細い人差し指で指差しながら

「先ほど友達(多分彼女)とケンカみたいのをしちゃって、僕とは違う暖色系の髪の色をした女の子をあっちでみかけませんでした?」と行き先を遠く眺めている目は私を全然見てなくて、半泣きだった。

「ごめんね、見てないと思うよ。ジジババの夫婦がいたくらいだよ」と私。

「そうですか・・・」と弱い声。
ぎゅーっとオレンジのカバーのスマホを握りしめていた。
会釈をしながら去っていった彼。

その瞬間・・・なんていうか
つまり数ヶ月続いている今の状況を一瞬、完全に、忘れた。
ふっとんだ感じだった。

青春っぽいなーとか野暮なことは思いたくないな。

小さくなっていく彼の後ろ姿をみながら段々聞こえてきた。
いつからかセミが唄っていたようだ。

そら


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