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自分のいのちや人生を人にゆだねられる幸せとは。僧侶が読み解く映画『ライフ・イズ・クライミング!』

 「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

第87回 「ライフ・イズ・クライミング!」
中原想吉監督
2023年日本作品


 2人のクライマーを中心にしたドキュメンタリー。なんだろう、この観賞後に湧き出る多幸感は。

 小林幸一郎、55歳。小柄で中肉中背、白髪交じりの頭に人懐っこい笑顔。オーラを感じさせないこの男性は、なんとパラクライミング世界選手権・視覚障害男子B1クラスで4連覇を達成し、「レジェンド」と呼ばれています。

 パラクライミングとは、垂直な壁を、据えられている突起に手足を掛けながら登る障害者スポーツです。障害の種類と程度によりクラスが分かれ、B1に入るのは全盲の方。選手は突起の位置が見えませんので、それを声により知らせるガイドと一体になっての競技となります。

 小林さんは28歳の時に病気が発症し、次第に視力を失っていきます。しかし、16歳で始めたクライミングを諦められなかった小林さんは、アメリカにわたり、障害者がクライミングを楽しめる術を探しました。そこで出会ったのが鈴木直也さん。アメリカで日本人初のロッククライミング公認インストラクターとなった人でした。

 いつしか意気投合した2人はコンビとなって、世界選手権を次々と制覇していきます。その傍ら、鈴木さんは小林さんをアメリカの大自然の中へ連れ出し、切り立った険しい岩盤でのクライミングへ共に挑むのです。

 小林さんには彼の背中を押した、偉大な先行者がいました。エリック・ヴァイエンマイヤーさん。全盲ながら、世界7大陸の最高峰を制覇したクライマーです。

 エリックさんは自身の障害について「僕にはとてもいい恵みだった」と言うのです。「『自分のいのちや人生を人にゆだねられる』という最大の喜びをもたらしてくれたのでね」と。ゆだねられる喜び。それは、小林さんからも鈴木さんからも伝わります。そして、実は私にもすでに用意されていることを思うのです。

 
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。


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