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僧侶が選ぶ、もう一度行きたいあの場所5選 国内編

雨続きで、なかなかお出かけしづらい梅雨のシーズン。ぜひ、誌面上だけでもおでかけ気分を味わっていただくために、国内外のいろんな土地から、編集委員が選ぶ「もう一度、行きたいあの場所」をご紹介します。前回の「海外編」に引き続き、今回は「国内編」をご紹介していきます。


①人生の夏休みを過ごしたい 千葉県・布良海岸
 

6月号特集藤本布良海岸 (2)

 お叱りは承知で申し上げます。

「夏はやっぱ、海だね~」

 25年ほど前のあるテレビドラマのセリフです。上手に生きられない主人公が、ここに「居場所」を見つけ「人生の夏休み」を過ごしていきます。ドラマにあこがれて、ロケ地まで訪ねていったのがまさにここ、千葉県館山市の布良海岸。

 放映時は学生でインターネットが広がりだした頃。関連する掲示板やサイトを訪ね続け、職に就いて少し余裕ができてから、ついにたどり着いたときはもう、涙が溢れましたね。当然ながら「民宿ダイヤモンドヘッド」は解体されていたのですが、この海岸に見覚えのある方もいらっしゃるのでは?

 「好き」とか「憧憬」は人を動かす力になるのだなあ、とその時思いましたね。お気に入りの場所になるのは、きっとその人の思いと重なるからなのでしょうね。この写真を見るたび、私は当時の記憶が駆け出します。そこには勿論やるせなさや心残りも含まれますが、それも今の自分を形作っている因であるわけです。ありがとう。

 ところで、現在は本誌でご旧跡巡りを楽しんでいます。思いを馳せることが、ますます好きになることにつながっています。素敵ですね。(藤本)
 

⑥親鸞聖人の道を辿る 僧侶ならではの京都
 

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 平安京の鬼門にそびえる比叡山。毎年7月の安居(あんご/本願寺で開かれる夏講)のついで、宗祖の歩まれた道を慕い、暇を見つけては登るのであった。その標高わずか848メートルながら、人力での往来には苦労を要する。初めての際は八瀬からケーブルカーを利用して本堂のある東塔を訪れたが、広大な境内にエリアが分かれているのを知らず、夕暮れであったこともあり無念の下山であった。

 臨む二度目は地下鉄・国際会館駅の一つ前で下車、山ガールと宗祖の逸話が伝わる赤山禅院を経て雲母(きらら)坂から登頂。ところが雲行きが怪しくなりこの日も慌てて引き返す。

 それからはレンタルサイクルを駆使し、馴染み始めた空間認知で色々な角度からアプローチを繰り返した。時には朋輩と連れ立って、ある日はスズメバチから必死で逃げ、夕立ちの雷にはへそを隠し、山ビルで両足を血まみれにしながらも、不安を励ますのはいつも大きな声で息切れに口ずさむ正信偈であった。

 それではお気に入りのルートを最後に。大原行きのバスで登山口という停留所から、黒谷の青龍寺、回峰行者の道を通り横川でひと息。それから大原へ下れば、あとはバス。※水分補給はふんだんに。バスのエアコンが強い時もあるので、帰りの着替えは必須。(小柴)
 

⑦朝湯が忘れられない 温泉津(ゆのつ)町温泉街

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 島根県大田市温泉津町。世界遺産・石見銀山の一角にある温泉街で、町並み保存地区にも指定されています。母の実家・江津市円勝寺の本堂修復落慶法要のため、近くの温泉津温泉で泊まった宿は築およそ100年。部屋の仕切りはふすまのみ、トイレ・洗面所共用、階段を上るとギシギシ……。

 けれどもお風呂は通りの向かいにある源泉掛け流しの元湯でした。泉質はナトリウム・塩化物泉。お湯に浸かるか、湯船から上がってひたすらお湯を頭からかけるという地元の爺さまたちのお作法を見て、シャンプーを持って入ってしまった自分を恥じつつ、一緒に朝風呂を楽しみました。

 さて、温泉津といいますと、浄土真宗のご法義を篤く喜ぶ「妙好人(みょうこうにん)」浅原才市さんの生家があることでも有名です。件の宿の隣には、才市さんの石像がありました(上記写真)。

 頭を見ると2本の角。お寺に参り、お聴聞を欠かさない宗教詩人・才市さんではありましたが、自分の本当の心は鬼のようだと自覚した姿です。山陰の、失礼ですが田舎町。けれども見どころいっぱい、温泉極上。行くべきところのひとつです。※新しい宿もあります! (星)

 ⑧親鸞聖人にひかれて 善光寺

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 趣旨と少しズレてしまいますが、この原稿を書いている今(5月中旬)、私は法話講師として長野県を訪れています。会所である長野別院のすぐ近くには「善光寺」があります。御本尊は日本最古の仏像と伝えられる一光三尊阿弥陀如来です。

「親鸞聖人は越後から関東へ赴く際に善光寺へ立ち寄って、御本尊に松をお供えして礼拝された」という伝承があり、境内には松を手に持った聖人の銅像があります。

 今年は7年に1度の御開帳の年。本物の御本尊は秘仏なので見ることはできませんが、御身代わりの「前立本尊(まえだちほんぞん)」が期間中(6月29日まで)の本堂にご安置されています。

 善光寺は浄土真宗のお寺ではないものの、聖人がご滞在されたと伝わるお寺で、聖人がお参りされたと伝わる阿弥陀如来に手を合わせることができるのは感慨深いです。境内や近隣には他にも聖人にまつわるスポットが点在しています。

 聖人が善光寺へいらっしゃったのは法然聖人のご往生を聞いたあとといいます。師匠との別れを通じて、この地で聖人はどんなことを考えて過ごしていたのでしょうか。宗祖への追慕の念が募ります。(横内) 

⑨極上の夕陽をご堪能あれ 島根県立美術館

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 島根には観光スポットとして石見銀山や出雲大社、松江城や小泉八雲記念館など、魅力的な場所が豊富にありますが、私はそれらを措いて第一に、島根県立美術館を推します。ここを目的として当地まで旅行する価値あり。

 立地は松江市、宍道湖畔。松江城から車で5分。特徴はまず建物。湖に向った西側が、広く大きく開いたガラス張り。そこから一面に広がる宍道湖。刻々と移り変わる水面の表情自体が生きた美術品です。そして夕方。悠々と沈んでいく陽の先に極楽浄土を思い起こしていただきましょう。

 「水と調和する美術館」をテーマにしており、ギュスターヴ・クールベの「波」を始めとする、水に関連した国内外の収蔵品が楽しめます。

 また見逃せないのが島根に縁のある写真家の作品群です。中でも一推しは奈良原一高。島根県立松江高校を卒業した彼の作品世界の濃密なこと。私が訪れた時には、たまたま企画展『王国』が開かれていたのですが、緊張感みなぎる静謐に私は時を忘れました。世界最大規模の奈良原コレクションを誇るあの館へ、また行きたい。いや、帰りたい。(松本)

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

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