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自分一人で満足している状態は「牢獄」と変わらない 僧侶が読み解く映画『バービー』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
 

第90回「バービー」

グレタ・ガーウィグ監督
2023年アメリカ作品
 
 物語が始まるのは、いろいろな姿のバービーがそれぞれ人生を謳歌しているバービーランド。そこは女性が主役の世界です。望んだ職業に就いて自己実現し、毎日パーティーを楽しむバービーたち。しかし、その中のひとりのバービーにある日、異変が起こります。体が劣化し、心に不安が生まれたのです。

 そうなってしまった原因を探り元に戻そうと、バービーはボーイフレンドのケンとともに人間界に下り立ちます。そこはバービーランドとは真反対の家父長制社会。バービーはそこでも、理想の存在として誰からも愛情と尊敬を受けるものと思い込んでいましたが、向けられたのは好奇と軽蔑と敵対の目でした。困惑するバービー。

 一方ケンは、人間界が「男性優位」であることに感激します。これまではずっとバービーの添え物でしかなかったのですから。ケンが人間界の価値観をバービーランドへ持ち帰って広めると、街はたちまち様相を変えます。さて、バービーはどうする?

 バービーランドには生老病死の苦はありません。ではそこはお浄土でしょうか。いえ、親鸞聖人のことばで言うなら「七宝の牢獄」と呼ぶのがふさわしいでしょう。親鸞聖人は他との関係を絶って自分一人で満足している姿を「宝石で作った牢獄に自ら閉じこもり喜んでいる状態」として警告しました。

 それは「胎宮」とも呼ばれます。母親のおなかの中にいるのはとても快適だけど、いつまでもそこに留まっていると自分も母親も危険になります。
留まっていたことに気づいたバービーが選んだ道は、私たちが歩んでいるお浄土への道とかなり重なっているように思えます。
 

松本智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。