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ありがとうの言葉|掌編小説(#シロクマ文芸部)

「ありがとう分が不足しています」

 スマホの画面にでかでかと表示されたメッセージをタップする。

「あなたが最後に『ありがとう』と言ったのは4日前です」

 ――いやいやそんなわけ……あるか。

 最近、仕事が忙しくてイライラして余裕がなくて、ありがとうの言葉の存在すら忘れていた。言ってないし、もちろん言われてもいない。「すみません」なら100万回くらい言ったかな。

 ありがとうって、意外と使い方が難しい。

「お弁当、温めますか?」
「え? ああ……」

 別にどうでもいいや。ありがとうなんて言っても言わなくても生きていけるし。

 ――帰って飯食って寝よ。

「お待たせしました。熱いのでお気を付けくださいね」
「ああ、ありがとう」

 コンビニを出た瞬間、「ピコン」とスマートフォンが鳴る。

 ――はいはい、今度は何のトラブルだ……。

「ありがとう分がチャージされました」

 ――なんだ? ありがとうなんて、いつ言った?

(了)


小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」に参加しています。

まぁ、意外とそんなもんです。
ありがとうって、自然に、無意識に出るものなんですよ。


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