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遠い花火|掌編小説

 ――ん?

 エアコンから生暖かい風が流れてきた。間違って暖房のボタンを押してしまったのかと思ったが、リモコンの液晶には「冷房」と表示されている。

 ――まさか……故障?

 夕方になっても、外はまだ28℃もあり、蒸し暑い。こんな状況でエアコンが故障するなんて、まさに地獄の始まりだ。
 たまらず扇風機のスイッチを入れ、窓を開けた。
 街の喧騒に混じって、ドーン、ドーン……と聞こえてくる。どこかで花火が上がっているようだ。
 そういえば、去年の夏は仕事に追われて花火大会には行っていない。いや、ひとつとして、夏らしいことをしただろうか。

 ――地獄ってわけでもなさそうだな。

 しばらく、遠くの花火の音に、聞き耳を立てていた。

(了)


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