ネコクインテット|毎週ショートショートnote
「はー! アンサンブルコンテスト全国大会金賞って凄いやん!」
知床ウインドオーケストラの事務所には、入団希望の橋本(キジトラ猫)が来ていた。団長の熊坂(エゾヒグマ)が橋本の経歴を見て、感嘆の声を上げる。
「オーボエは自前なんか?」
「はい、ロレーを使っています」
「マジか!? さすがやな」
ロレー(Loree)はオーボエの世界3大メーカーの1つで、パリの会社である。
「でも、なんでわざわざ知床に来るん? 旭川にも吹奏楽団あるやろ?」
「そうなんですが、ちょっといろいろありまして……」
橋本が言い淀む。
「え? 何? トラブルは勘弁やで?」
「クインテットのメンバー間で、恋愛関係のゴタゴタが……」
「そっちかー! まぁ、しゃーないけどなぁ」
恋愛絡みは団員間で最も気を遣う問題だ。上手くいけばいいが、そうじゃなかった場合は両方が「退団」という道を選ぶ。
「吉田君(白猫)が早川さん(三毛猫)にストーカー行為をするようになって、早川さんから相談を受けていたんです」
「そんでそんで?」
熊坂は身を乗り出している。
「その……相談に乗っているうちに、私と早川さんは……」
「超展開やないかーい!?」
熊坂はテーブルを思いっきりひっくり返し、宙を舞ったテーブルは壁にぶつかって粉々になる。
「そんで2匹揃って知床に愛の逃避行ってことなんやな? 任せとき! ウチで面倒見たるわ!」
熊坂が「ドン」と胸を叩いた瞬間……。
――バーン!
突然、事務所の扉が勢いよく開いた。
「誰やねん! 今ええとこや!」
「橋本さん!」
そこには、三毛猫が息を切らしながら立っていた。
「早川さん! どうして……」
「あなたの部屋に、知床ウインドオーケストラ団員募集のチラシがあって……」
「あの、団長の熊坂です。話は先ほど――」
「橋本さん! 戻って来て!」
「無視かい!」
2匹は手を取り合い、熊坂にお辞儀をして事務所を出て行った。
「お幸せにー!」
事務所には、熊坂と、粉々になったテーブルだけが残された。
(了)
たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「ネコクインテット」です。
「クインテット」という単語が出て来た時点で、もう吹奏楽ネタに決めていました。私は小学校3年から専門学校、社会人と、青春の全てを吹奏楽に費やしましたから。
中学、高校で部長、担当楽器はトロンボーン、ユーフォニウム、チューバでした。(現在はピアノのみ)
テーマ「創作」で「CONGRATULATIONS」を頂きました!
先週のお題は「噛ませ犬ごはん」でした。
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!