赤い眼|掌編小説
――その眼は、赤輝血の如し。
子供の頃、ほおずきの実が、須佐之男命が退治した八俣遠呂智の眼に例えられると母から聞いた。それ以来、庭に実ったほおずきを見るのが怖くなった。
彼から「浅草のほおずき市に行こう」と誘われた時、「ああ、逃げられないんだな」と思った。島根から東京へ逃げても、大蛇の眼は追って来るんだと……。
「うわー暑い! まだ7月なのに」
彼はそう言うと、日陰の方へと私の手を引いた。反射的に身を固くする。
――見ているぞ。
ほおずきの膨らんだガクの中から、赤輝血の眼が私を睨んでいる。
きっと試しているんだ。
私が今の状況から抜け出せるのかを。
「ほおずきの花言葉、知ってますか?」
彼は振り向き「え?」と首を傾げる。
「偽り、です」
「心の平安、もあるよ」
――なんだ、知ってたんだ。
「私、帰ります」
「どうかしたの?」
「あなたも帰った方がいいですよ。奥さんと、お子さんのところに」
何かを言おうとした彼に背を向けた。
スマートフォンを取り出し、母に電話をかける。
「お母ちゃん? お盆には帰るけん。もう少し、待っちょってね」
電話を切ると、鈴なりのほおずきが風に揺れた。
(了)
ほおずきって漢字で「鬼灯」や「鬼燈」と書くんですね。
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