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春ギター|毎週ショートショートnote

――今年も沸いて出たか……。

夕方、駅前ロータリーのストリートミュージシャンを見て、心底うんざりした。俺にとっては、騒音をまき散らす迷惑者にしか見えない。

見覚えがある。確か去年も同じ時期、同じ場所で歌っていた。若い女性だ。学生だろうか。小柄で、ギターが異様に大きく見える。

――不格好だな。

バス停へと歩きながら、女性を一瞥する。

***
春は好きじゃない。
嫌いってわけじゃないけど、苦手なんだ。
みんながそわそわして浮足立っているのを見ると、とてつもなく寂しくなる。
***

足が止まった。

――知ってるぞ。この歌。

無意識に、足が女性の方に寄せられる。
俺が中学生の時だから、もう30年以上前だ。確か男性のソロ歌手で、言っちゃ悪いが曲も歌手もあまりパッとしなかったと思う。

――だが、俺は好きだった。

そんな昔の曲を、目の前で歌っている女性が知っているはずはない。どう見ても生まれる前だろう。

「あの、その曲をどこで?」

曲が途切れたところで、思い切って声をかける。
女性は顔を上げて俺を見た。目を見開いて、少し驚いている様子だ。

「父の好きな曲なんです」

多分、この女性の父親と俺は同年代なのだろう。

「私が小さい頃、父はギターを弾きながらよくこの歌を歌ってくれました。あんまり上手じゃなかったけど、私は好きでした。歌も、曲も、父も」

「このギター、父の形見なんです」

微笑む女性に、何も言えなかった。
女性を「騒音をまき散らす迷惑者」と心の中で罵ったことを、猛烈に後悔した。

「もう一度、歌ってくれませんか?」

女性は――小さなミュージシャンは大きく頷いた。

春の風に乗り、その歌声は世界の隅々まで届く……そんな気がした。

(了)


たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「春ギター」でした。

なんとなんと、4月に入って初の毎ショでございます。
ショートショートじゃなくて、ただの超短編小説になってしまったけど、許してね…。(゚∀゚)
それにしても、4月は過ぎるのはえぇな……。


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