運試し擬人化|毎週ショートショートnote
もう〆切はとっくに過ぎた。
編集部に「もう1日だけ待ってもらえないでしょうか」とメッセージを送ると、向こうもパニックになっているらしく、
「〆切? ああ……とりあえず2、3日はいいっすわ!」
と軽くあしらわれた。命拾いした。
――はぁ。
座椅子の背もたれに体を預け、天井を仰ぐ。もう1時間も原稿は真っ白のまま。気晴らしにTwitterを開くと、「運試し擬人化」というアプリの広告が表示された。また変なのが出た。擬人化とか、興味ないっての。
「人が写った写真や画像データをアップロードすると、それをAIが擬人化し、簡単な会話ならやり取りできます」
私は何も考えず、別れた妻の写真をアップロードした。別に未練なんてない。ただの暇つぶしだ。まったく……原稿の〆切が過ぎているのに、暇つぶしも何もないだろう。
画面上に「Now Loading」と表示され……妻の姿が映し出された。
「原稿、進まないの?」
突然、画面の妻が喋り出した。
「最近、調子が出なくてね」
私はキーボードで文字を打ち込む。
「大丈夫よ。何だかんだ言って、あなたはちゃんと書く人だから」
「そりゃまぁ、仕事だから」
「私はあなたの書く物語、好きよ」
「お世辞でも嬉しいよ」
――俺は一体何をしてるんだ!?
「私はいつも、応援してる」
「本当か? 本当に応援してくれるのか?」
「疑い深いわねぇ。本当よ」
「ありがとう」
「風邪ひかないようにね」
「ああ、ありがとう……」
画面の中の妻は、ニッコリと微笑んで消えた。
――よし! 書くか!!
私は気合を入れ、キーボードを叩き始めた。
その直後、スマートフォンが鳴る。
別れた妻からだった。
(了)
たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今年最後のお題は「運試し擬人化」でした。
今年6月11日から参加した毎週ショートショートnote、おかげさまで一度も欠かすことなく書くことができました。
私がショートショートを書くようになったのは毎週ショートショートnoteがきっかけなので、主催のたらはかにさんには本当に感謝感謝です。
2023年も引き続き、よろしくお願いします。
「創作」カテゴリーで「CONGRATULATIONS」を頂きました!
先週のお題は「クリスマスカラス」でした。
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!