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嘘|掌編小説

 息をするように嘘をついている。
 兄がいるのに一人っ子だと言い、ペットはいないのに「白猫を飼っています」と言い、彼女がいないのに「彼女は海外出張中」だと言う。

 誰にも迷惑はかからないし、困らない。だって、人って自分以外に興味なんてないんだから。

「嘘つくのって、体力使うよね」

 彼氏と何かあったのか、隣の席の同僚の女性が疲れた顔で呟く。

「できれば嘘なんてつきたくない?」
「そりゃそうでしょ。疲れるし、めんどくさいし、いいことないわよ」

 俺は「だよね」と同意する。

 自販機で缶コーヒーを2本買い、1本を同僚女性のデスクに置く。

「え? なになに?」
「まぁ、何となく」
「まぁ、ありがとう」

 疲れてめんどくさい生き方を、少し変えてみようか。

 嘘ではなく、そう思った。

(了)


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