琥珀糖|掌編小説
取引先の人からお土産をもらった。
琥珀糖なんて懐かしい。多分、最後に食べたのは小学生の頃だと思う。
包み紙を開け、中身をお皿に移して、しばし眺める。無色透明の小さな四角い物体は、正直美味しそうには見えない。
――琥珀糖ねぇ。
なぜ取引先の人は、わざわざお土産に琥珀糖を選んだのだろう。嫌いではないが、取り立てて食べたいとも思わない。
しばらく琥珀糖を眺めていると……。
――んん?
琥珀糖が、急に薄い紫色になった。光の加減でそう見えるのかと思い、お皿を持ち上げてぐるぐる回すと、今度は薄い青、薄い黄色、薄い緑と、次々に色が変わった。
――へぇ、面白い仕掛けだな。
1つ摘まんで口に放り込むと、表面はシャリッと、中身はグミのように柔らかい食感で、口の中にほんのりと甘さが広がる。
――うん。悪くない。
そう思った瞬間、スマートフォンが鳴る。琥珀糖をくれた取引先の人だ。
「琥珀糖、いかがでした?」
「懐かしい味です。楽しませて頂きました」
ずいぶんとタイミングがいい。まるで見ていたかのようだ。
「ところで、その琥珀糖は何色でしたか?」
「……え? 最初は透明だったんですけど、紫とか青とか、急に変わりましたよ。面白いですね」
「そうですか」
取引先の人は、少し黙った。
「その琥珀糖、見る人によって違う色になるんですよ」
「……はい?」
一体何を言っているんだろう、この人は。からかっているのだろうか。
「私は薄い紫、青、黄色、緑だったんですが、それってどういう……」
「そうですねぇ。明日はいいことあるってことですよ、きっと」
心の中で「何をバカなことを」と笑いながらも、「いいですね、それ」と返した。
(了)
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