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vol.090「教科書や研修では教えてもらえない?試行錯誤の産物『管理職の、これだけはやる』集」

あるひとつの能力について、違うコミュニティの別々の人から、具体的な表現で評価されるか褒められるかして、
あ、これ、もしかすると『お金の取れる技術』なのだな
と気づく、ということが何度かありました。

または、管理職を十数年やってきて、
この視点って、めちゃ重要なわりに研修でも教えてくれないよな
このスキルは、どうやら自分が、ほかの管理職より得意らしいぞ
と思ったことが、いくつかあります。

これまでに何度か、記事に書いてきたテーマ群を、いちど体系的に整理しておきたいと思い、ツリー化してみました。


1.話を聴ききる。言いきる。

管理職になってさほど立ってない頃、チームメンバーに「ちょっといいですか」と申し出られて臨時の面談をすることがありました。今でいえば1on1です。
「仕事の分担量/ほかの同僚たちへの不満不信」という話からはじまって、昼休み明けから、けっきょく夜まで、6時間半かけたと記憶しています。

あとで振り返って、重要(有効)だったと思う要素を書き出してみます。

◆さえぎらず、最後まで聴く。

話を途中で遮らず、先まわりせず、最後まで聴く。同じ話が繰り返しても、自身が着任するはるか昔のことでも、否定せず聴く。
その人が話したいエネルギーが尽きて、いわゆる満足する、気が済むまで聴ききる。
「早く切り上げようとしている」「無難に済ませようとしている」と思われないこと。

◆反応する。

管理職研修で教わる「誠実に」「笑顔で」のテクニックだけなぞっても、見透かされる。
「親友から重たい相談を受けた」と思えばわかります。深刻な話のときにはみけんにシワが寄る。ため息、頭(かぶり)を振る。面白い話には思わず笑う。人間らしいリアルな反応をするということ。

これはトレーニングをすれば誰でも上達する技術です。練習しましょう。
と同時に「最後まで聴く」と決める。「損得を計算せず、先にコストを払うのだ、という態度」が大事だと思います。

◆言いにくいことを、言いきる。

「聴く」と同じぐらい重要なのが「言いにくいことを、言いきる」。

「意見を採用するとはかぎらない」「この件は時間がかかる」とはっきり言う。先延ばしにすると、期待させた分、相手の落胆も大きくなる。誰も幸せにならない。
「同じことを、いつ言うかコントロールすること」が、リーダーのやることだと思っています。

『6時間面談事件』では、たしかこんな話をしました。
・他のメンバーとも話をしてみる。その内容を共有するとは限らない
・他人=何十年生きてきた人間が急に生まれ変わったりはしない
・「他のメンバーが仕事をしないから自分も仕事をしない」のかは、貴方が決める問題だ
・全ての他人は貴方の人生に関係がないし、他のメンバーの人生に貴方は責任を持ってない

◆本人は、分かっている。

面談を終え、夜遅くなったことを詫びると「話を聞いてもらってありがとうございます」と言われました。
私が言ったようなことは、本人も内心ではよくわかっていると思います。頭ではわかっていてだけど、長い期間ため込んで、私を呼び出して話したかったのだと思います。
翌日からまた淡々と誠実に仕事をしてくれました。

2.トラブルは、先頭に立つか、最後尾を受けもつ。

会社組織で、メンバーの「信頼ポイント」を積み上げる2大チャンスが、
・悪い情報の上位者へのエスカレ
・顧客とのトラブル発生への対応

です。

◆悪い情報の上位者へのエスカレ

管理職が、自分一人では作ることができない資産が、「周囲から評判」です。

メンバーからの悪い情報、特にその人に失敗の原因があるとき、平然と聴く。責めたり血相を変えたりしない。
上級上司や経営層に報告を入れるとき、矢面(やおもて)に立つ。平常の声色、態度で報告をはじめる。悪い結論をさっさと言う。わからないことに「それは今わかってません」と言う。

そういう振る舞いを、メンバーはよく見ています。そして一件落着したあと、(管理職のいないところで)シェアされます。
「あの人は事件の最初から最後まで、一度も慌てなかったよ」
「悪い報告に不機嫌にならない。どんどん入れたほうがいいよ」

他の部署にも口コミは伝わります。または態度や行動を、遠目で見られてます。別の困りごと発生で、話したことのない人が声をかけてきて、有益な情報をくれる。「この前はおつかれさまでしたね」と話題にしてくれたりする。
「評判」に基づくプラスのサイクルが回り始める。「自分でやらない宣伝が一番効果がある」の法則です。

◆顧客とのトラブル対応のポイント。

①対等に振る舞う。
最も重要な交渉の基本。自社側に起因するお詫びであっても卑屈にならない。言うべきことは相手怒るかどうかとかに関係なく、言う。
「契約」は対等なもので、サービスを提供する側と料金を支払う側にすぎない。「等価交換」である、という視点を持つ。

②「ラスボスを倒す」ことに集中する
「この事案を決着させるための最重要人物は誰か」を早く特定して、その人を倒しに行く。相手を負かしに行くことではなく、矛を収めて了解をいただくこと。解決に向けた協力者になってもらうこと。
ロールプレイングゲームで、ラスボスを倒せば、他のモンスターは同時に消滅して世界は平和に戻る。同じことです。

③持ち帰らない。
大企業の管理職は優秀な人ぞろい。言い換えると「大失敗したり、理不尽に怒られた経験が少ない人たち」です。お客様に「口答えしてはいけないもの」と思ってる。宿題をそのまま持ち帰ってしまう、ということも多い。
だけど、解決できない宿題を受け取ってしまうと、時間だけが経って、結局相手にも迷惑がかかります。できないと判ってるものはその場で断る。相手が気色ばんでも、ゆずらない意思表示をする。

④自分のせいだと思わない。
誤解を招きそうな表現ですが、重要なのは事態を終結させることです。
「立場」と「個人」を切り離して、安定したメンタルで集中する。「自分は通りかかりの勇者。解決したら褒められるヤツだ」と開き直る。
悪びれない、卑屈にならない、というのは交渉の大原則です。

「顧客とのトラブル対応に嬉々として出動していくキャラ」
は、特に優良大企業ではガラ空きのポジションです。
それでいてお得度が非常に大きい。異動したらまず獲りにいくようにしています。

起きてしまったトラブルは、解決しない限り消えてなくなったりしない。事態が変わらないなら「落ち着いてるふり」をする。
「いちばん得な行動・態度を選べ」ということになるかと思います。

3.「上司とは煙たいもの」だとわきまえる。例外をつくらない。

管理職の、ある意味で無邪気な"カン違い"の代表は、
「自分はメンバーと、関係構築できている」
「まずまず、マネジメントできているほうだ」

だと思います。
あるアンケートで「管理職の7割が『自分は平均より上だと思う』と答えた」という結果が出たそうです。算数的におかしいですよね。

管理職(上司側)としては仲良いつもり、好かれてるつもり、は私もすぐおちいるほうです。
そこで決めたひとつが「飲み会についてのマイルール」です。

◆自分からは誘わない。

何年か前に決めたマイルールの1番めです。
メンバー(部下)は、上司から「飲みにいかない?」と誘われたら、①断りづらいから仕方なく行く、②心理的負担を感じながら断る のどちらかを選ぶ羽目に陥ります。そして「上司の全オゴリ」でないかぎり、「お金と時間を奪う」ことになる。
「コミュニケーションは、業務時間中に取るもの」だと考えています。

◆「不参加の理由」を聞かない。

忘年会や送別会などの「公式行事」を含めて、不参加の人、断った人に「なんで?」「何か用事あるの?」と聞かない。プライベートであって、詮索や強要する権利はない。

◆ワリカンするくらいなら行くな。

1対1、少人数のランチ等は全額もつ。大人数なら必ず多めに出す。誤差レベルでなくはっきり多く出す。
1万円を3回払って『毎回多く出す上司』の評判を得るか、3千円を10回払って『毎回ワリカンの上司』と思われるか。
どちらが得か考える。

◆「自分はそれほど魅力的ではない」とわきまえる。

映画が面白くなかったら途中で席を立てばいい。テレビ番組が以前にも観たものだったらチャンネルを変えればいい。
「上司との飲み会」では、それができません。面白くない+同じ話の繰り返しの「二大苦痛コンテンツ 同時発生」だったりするわけです。苦行以外の何物でもない。

「自分で思っているほど魅力的な上司ではないし、話もそんなに面白くない」と自分に言い聞かせる。
「気さくに部下を飲みニケーションに誘う」という一見マネジメント技術の一環に見える、自己満足の誘惑を振りきりましょう。

4.「情報」は生命線。なにしろ"機嫌よく"いる。

管理職は一人では何もできない生き物です。
メンバーからの情報、信頼は、最大の財産であり、細心の注意を払ってよいものです。

◆姿、形の見えないものを問わない

スキル・経験値がいらず、すぐ実行できるのが、「精神論を持ちださない」こと。
「精神論」とは「反証のしようがないもの」をベースにすること。
・目に見えないもの、数えられないもの(例:「やる気はあるのか」)
・理屈の上では必ず正しく反論できないもの(例:「目標達成しなくていいのか」)
等など。

反証可能な土台で話すのを「科学的な態度」。反証できない土台で話すのを「精神論」と言ってよいかと思います。
つまり、精神論を持ち出す人間はその時点で、非科学的だということです。

◆なんでもいいから、機嫌よくしておく

上司が温和でいると、相談がしやすい。不機嫌だと話を持っていきづらい。この単純な原理を理解している管理職は案外すくない。
「なぜ報告しなかったのか!」と言い出す。「あんたが話しかけづらいからだよ」とツッコみたくなる。

いちばん効率がいいのは「つねに機嫌よくいること」。メンバーが顔色やタイミングを伺わなくてすむこと。
自分では厳かなつもりで、「話しかけづらい雰囲気を出す」などは「勤務時間中に居眠りする」のと同じかそれ以上の怠惰です。
まちがっても尊敬などされていない。

管理職は偉いわけでもなんでもない。人格者の証しでもない。
単なる機能(記号)に、給料が余分に払われているだけです。


5.「フィードバックの仕組み」にはコストをかけよう。

管理職として、にかぎらず、何に時間を割いて、そこで何を吸収し、何を保存していくか。何は捨てるか。人生の質感に大きく影響します。
自身の一連の行動を定期的に点検して、手直しすることがまた重要で、そのために必須なのが「フィードバックをもらう仕組み」です。
フィードバックにはコストを投じるだけの価値があります。

◆「無記名アンケート事件」

私が過去に試した取り組みで、「無記名カイゼン要望アンケート」という事件があります。
当時のチームメンバーに、「私に改めてほしい事項を、無記名で書き出して、教えてほしい」と頼み込んだもの。メンバーからすれば「とっても面倒くさい案件」です。まかりまちがえば嫌がらせ・報復されるかも。リスクしかありません。

頼んだ私もそう思うから、1か月弱経ってあきらめかけていたころ、チームリーダーから声をかけられます。
「こないだのアンケート、作成しましたよ」
聞くと、私が出張で不在の日を選んで集まり、ホワイドボードに書き出してブレストしてくれたとのこと。こちらの想像をはるかに超えるアウトプットです。
内容はというと、「基本的には今の路線でいいとは思うのですが(ここまで3行)、しいていえば改めてほしいのは、、、、(以下20行びっしり)」というもので、言葉で形容できないほどありがたいものでした。

◆一生モノの「経験」。

この事件はその後、いわゆる"鉄板ネタ"になりました。
同僚・友人たちからは感心と、苦笑い。上級上司たちには100%ウケる。
指摘事項が私を正確に捉えた欠点(伸びしろ)で、言語化の見事さも手伝って「めちゃくちゃ当たってるじゃん!」と話す相手 みな 大笑いでした。
こんなことをする管理職はほかにおらず、受けて立ってくれるメンバーもいない。リスクを取っていること。信頼関係と緊張感。上司と部下たちの良い意味でのボケ。その価値が理解できるからだと思います。

価値とは本質的に「正しさ」よりも「希少性」が生む、という事例です。


とにかく、どうにかしてフィードバックの仕組みをつくる。コスト(お金や手間や面倒)を注ぎ込む。
それだけの価値があります。
一生の宝となる体験をさせてくれたメンバーには、言葉では言い表せないほど感謝しています。


以上、私が、いろいろ大失敗もして、高い授業料を払って、実践するようになった「教科書や研修では教えてもらえない『管理職のコツ』」を整理してみました。

共通点をまとめてみると、
・管理職は一人では何もできない生き物。最大の顧客は、部下(メンバー)である。
・リスクだと思っていることの大半は、実は錯覚で、大したことがない。
・部下(メンバー)に支持されるためには、「内心の予測期待値を上方向に裏切る」こと。
・効果的なのは、「聴く。情報は生命」「外敵と戦う。リスクを取る」「とにかくストレッサーにならない」
ということになるでしょうか。

すこしでもお役に立てたらとても嬉しいです。

最後までお読みくださりありがとうございます。



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