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団地のキリン



実家に帰った時、少し離れた建物の向こうにひょろっと黄色いクレーンの頭が見えた。

あの場所はもしかしたら……

その場所に心当たりがあり、クレーンの足元に早歩きで向かった。



やっぱり!


その場所は幼馴染の実家。
取り壊されて更地になり、新たに木材が運び込まれていた。


風通しの良くなったその場所を、ぼんやりと見ていた。見ているしかなかった。鍵っ子だった私がよく入り浸った場所。

自分の実家でも無いのに、物悲しかった。


昼休みだったのか、数人の職人が作業を止めて座り込んでいる。私がずっと見ているのも怪しまれそうで、写真だけ撮ってそそくさと立ち去った。


10年前。
友達が、地元を去り東京へ行く日。私の家に挨拶にきてくれた。


「また、こっちの家に帰ってくる?」と聞くと、

「もう帰ってこないかな」と言ったので

そんな日が来たんだとハッとした。
ずっと、ここに居るのが当たり前だったから。



撮った写真をLINEで送った。

《跡形もないじゃん!》


ビックリマークと共に返信がくる。


「帰ってくる場所がなくなっちゃったね」と寂しい気持ちで送ると、





《うん。でも、TOMOがいるから!

 今度帰って来るね》

と予想外の返信。


いつも、宝物にしたくなる言葉を
一番寂しい時にタイミング良く送ってくれる。


帰ってきてね。


いつでも帰ってきてね。


実家から見えるキリンを眺めながら


じんわり思った。



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