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感想『最終兵器彼女』

高橋しん(作)マンガ『最終兵器彼女』全7巻を読み終えた。

以下、ネタバレ注意。

笑いあり、涙ありと紹介される作品があるが、本作には苦しみと寂しさ、辛さという喜怒哀楽を“最期”に詰め込んだ傑作。

敵も理由も分からないまま世界は刻一刻と崩壊してゆくが、自問自答をやめることはできない。悩むことが死人や兵器との差異であるから。

距離感を表すのは当然だが、ちせの高機能な遠隔性や各キャラの心の壁という意味でも、主人公のいる場所だけが描かれているように、目や手が届く範囲・心理的遠近感というものが重視されている。それ故にちせの「のろさ」も一話から徹底されているのか。

純愛がテーマであるから、途中、読むのが辛くなる場面も多いが、毒素が抜け出るまで汚染された土壌で草木が一挙に枯れ、それを乗り越えたとき「新生」を迎えるように、ある種の反抗期を経て、母体へと還る。

先日、新海誠の「ほしのこえ」の映画とノベライズ版にふれた。エヴァよりもむしろこっちの方が対立軸として面白いと思う。戦争やカタストロフィ、終末よりも恋愛に重きが置かれているから。

「ほしのこえ」も宇宙探査の説明がほとんどなされておらず、彼らにとって宇宙人が敵なのかも分からない。終盤でも映画「2001年宇宙の旅」におけるモノリスのように、人類進化の導き手なのかもしれない描写がある。
ところで男性主人公は最後、ヒロインを救おうとし、ノベライズではその先まで描かれている。

終末を描いた漫画の傑作として、つくみず(作)マンガ『少女終末旅行』がある。こちらもなぜ世界が終末へと至ったのか、明確に説明されることはない。
そしてラストは、本作同様、主人公らは終末の先にある“眠り”へと向かってゆく。『少女終末旅行』は主人公が姉妹。こちらも「二人だけの世界」へ回帰していったと言える。また、絶望と仲良くなる、という話があるが、その視点でみれば、『最終兵器彼女』は不条理と仲良くなったのではなかろうか。

そして最後に、このご時世、終末へと至る戦争が必ずしもSF等による空想ではないようだ。
不条理と仲良くなるというのは、罪の赦しを神や愛する人、先に逝った者に請うことではなく、罪を背負うから始まる。

極めて純度の高い愛。セカイ系におけるひとつの臨界。母体回帰とイノセント。徹底的な不条理と不安。キルケゴールの言う通り、絶望は死に至る病である。そして彼の言うように、肉体的な死は単なる死であり、死に至る病ではない。

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