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幻想文学

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#小説

星の欠落

「全然気づかなかった。」
女の子は、悄然と呟いて洞窟の地面を見つめた。そこにはボロボロに引き裂かれてしまった影があった。ランタンの灯に照らされてゆらゆら揺れ動いている。
氷の世界、炎の世界、土の世界、空の世界と女の子は無謀な冒険をしてきて、それでもまだ足りずに地下洞窟の世界に乗り込んだところだった。沢山ある世界達の中でも一等危険と言われる所。
無謀な彼女を『怖いものなしのジョバンニ』みたいに巨大な

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ペットと輪転する円環

 「ねえ。ペットがいなくなったら探そうとする?」

 白い曇天の下で石作りのベンチに腰掛けて君に聞いた。少し肌寒い。
 ここは駅前で、一時期は違法駐車された自転車の山で埋め尽くされていたけれど、それだけの人の出入りを感じさせるものは今の私たちの周りにはない。薄汚れた大量の自転車たちは規制が厳しくなってからもう現れないし、ここは駅の栄えていない方の出口の外れで、何より平日の昼下がりだったから。
 

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春雷  (一)

 春が来た。

 雷鳴を轟かせながら降下してくる雷鳥達が月あかりに照らされて白銀の翼をはためかせた。月世界との交易が始まって5年。八ツ代ノ岳(ヤツシロノタケ)は二星間の貿易拠点として陽春の候、精華なる狂乱の様相を呈していた。月世界と交流があるのは2月〜4月の薄桃色をした空気の日に限られており、従って今日のようにうららな夜は次々と、その澄み切った空気を引き裂いて天の雷鳥が舞い降りる。

 ここ八ツ代

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汐未亜の初恋

 つまらない授業中、教卓の上を歩く小人を夢想した。小人は妖精じゃないから羽を持たない。飛べない小人は教卓から降りられない。

 永遠に教卓の上に縛り付けられた小人は、でもその狭い世界をよぉく観察している。教卓の隅につもった薄い埃から最前列の生徒の落書き、どの教師の筆箱にコンドームが入ってるかなんてことも知ってるのだ。ちなみにそれは学校の倫理科目を担当している教頭先生なのである。たしかに倫理的なのか

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