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映画考察:『プラットフォーム』は名作のための駄作。


序文

「お願いです。誰か見てください。お願いです。誰かに伝わってください。」

 もし、この作品のラストが嫌いだったり、意味が分からなかったという人は、この考察を読んでください。途中が長いので、最後の「結論」という所だけでも大丈夫です。
 僕はこの作品を、神話やドン・キホーテの知識がなくても見れるよと言い切ることができます。しかし、考察記事の多くは、神話や伝説との結びつきを解説するだけで、この作品の本質から目を背けています。
 最も素晴らしい映像作品の一つであるにも関わらず、このようなバイオレンスに晒され続けている『プラットフォーム』を考察し、まとめてみました。

https://klockworx-v.com/platform/

『プラットフォーム』という作品の構造

 この作品を初めて視聴した多くの視聴者が抱く感想は、「資本主義、格差社会のグロテスク」だと思います。僕もそう感じましたし、一つの感想として間違いではないでしょう。しかし、監督のガルデル・ガステル=ウルティア氏はインタビューにおいて、こう明言されています。

We certainly do think that there has to be a better distribution of wealth, but the film is not strictly about capitalism," he explained.(「富のより良い分配が必要だと私たちは確かに考えていますが、映画は厳密に資本主義についてではありません」と彼は説明した)

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

 つまり、本作は『資本主義についての社会風刺を用いて、更なるテーマへの昇華』を目指した作品だということになります。実際、『プラットフォーム』では、単なる社会風刺作品としては奇妙な程に、抽象的かつ、矛盾する描写が含まれていますよね。今回の考察では、インタビューを元に、作中で発生する不可解な描写の意図を解読し、テーマを解き明かしていこうと思います。

https://klockworx-v.com/platform/

不可解な描写

333階、子供

To me, that lowest level doesn't exist. Goreng is dead before he arrives, and that's just his interpretation of what he felt he had to do," Gaztelu-Urrita noted.(「最下層は存在しません。ゴレンは到着する前に死んでいます。それは、彼がしなければならないと感じたことに対する彼の解釈にすぎません」とガステル・ウリタは指摘しました。)

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

 監督によると、最下層や女の子は存在せず、ゴレンの理想を描いたものであるそうです。ゴレンにとっては、パンナコッタよりも女の子という伝達が、より伝達として優れているという認識があるという描写にも取れますね。
 子供の性別が聞いていた通りの男の子ではなく、女の子になっているという矛盾する描写をわざわざ入れてくるのも、これが理由でしょう。男の子ではなくて、女の子が救われる方が、より多くの人に感動を与えますから(嘘だと思うなら、今すぐ、より多くの創作物を見てください。日本のアニメは特におすすめです。)。

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

パンナコッタルートと髪の毛

Ultimately I wanted it to be open to interpretation, whether the plan worked and the higher-ups even care about the people in the pit.(最終的には、計画がうまくいったかどうか、上層部がピットの人々を気にかけているかどうか、解釈できるようにしたかったのです。)

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

 作品中盤、厨房のような場所で、管理人のような人物がパンナコッタに髪の毛が混入している事に対して憤怒するというシーンがあります。
 このシーンは、上層部の人間は下層部の人間に自己満足な平等を与えているという風刺であると同時に、パンナコッタが上層に届いた世界線におけるラストシーンであると僕は考えています。パンナコッタ程度では、ゴレンの努力は実らず、「髪の毛が入っていたから、食べてもらえなかったんだ」という誤解を生んで終わりのようです。
 この描写によって、この作品は複数のラストが示唆される、視聴者によって分岐がある作品となります。

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

面接

They'll accept him no matter what, but that way of approaching the interview by the administration, makes it that access to The Platform it’s shown as a great opportunity, as a luxury to aspire, when it is actually your perdition. I'm sure we've all been through some job interview like this ...(彼らは何があっても彼を受け入れますが、行政によるインタビューへのそのようなアプローチは、それが実際にあなたの破滅であるとき、それが素晴らしい機会として、願望する贅沢として示されるプラットフォームへのアクセスを可能にします.私たちは皆、このような就職の面接を経験したと確信しています...)

https://collider.com/the-platform-ending-explained-netflix/

 社会風刺を目的とするのであれば、面接の描写は不要です。社会全体の仕組みに加われない人間もいるのだ、と解釈すれば筋は通りますが、テーマからは少し逸脱しています。
 監督は『プラットフォーム』を「素晴らしい機会であると見せかけているが、実際は破滅である」としていて、そのためにこの描写を入れた事が分かります。そして、「私たちがこれを経験している」とも語っています。これは『プラットフォーム』とは何かを解き明かす、大きなピースになります。

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

削除されたラストシーン

We actually did film a different ending of the girl arriving at the first level, but we took it out of the movie.(実際には、女の子が最初の階層に到着する別の結末を撮影しましたが、それを取り除きました)
"I'll leave what happens to your imagination."(「どうなるかは想像にお任せします」)

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

 本作には撮影されたが使われていないシーンがあり、先ほどの、「パンナコッタが最上階に到達したラスト」との対比になる、もう一つのラストシーンになります。こちらのルートでは、パンナコッタルートと違い、上層の人間(髪の毛を指摘したお爺さん)が何かを感じ取り、女の子を優しく抱擁します。
 パンナコッタルートを取り除かなかったにも関わらず、このシーンを映画から取り除いたのは、作品のもう一つのテーマが損なわれると感じたからでしょう。仮に、このシーンを作中に入れていれば、この作品の評価はより良くなったと思います。ですが、評価の先にある価値を監督は優先したということでしょう。

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

持ち込み品

What are the administration’s goals?(行政の目標は何ですか?)
GAZTELU-URRUTIA: That's a minor issue ... What matters is what each of us do with the cards that we got ….(それは些細な問題です... 重要なのは、私たちが手にしたカードをどうするかです....)

https://collider.com/the-platform-ending-explained-netflix/

 当然のように作品の中に存在しますが、明らかにおかしなものがあります。持ち込み品の存在です。
 資本主義による格差を描くというテーマの中で、それぞれが自分の選んだ物を持ち込めるというのはおかしな話です。自分で選べないが故に、格差が生じるのですから。面接のシーンと同じく、テーマから逸脱しています。
ゴレン(ドン・キホーテ)
トリマガシ(包丁)
イモギリ(犬) 
ミハル(ウクレレ)
バハラト(ロープ)
 これら全てが作品内に登場しなかった場合、この作品のプロットは変わりますか?ゴレンやバハラトの行動に変化はあったのでしょうか?

https://www.netflix.com/jp/title/81128579

一緒に行けないゴレン

In many ways, the movie was a lesson for those involved in the production as well, because we also saw the same message, that collective stupidity that we deal with that prevents us from seeing the actually important issues.(多くの点で、この映画は制作に携わる人々にとっても教訓となりました。なぜなら、私たちが対処している集合的な愚かさが、実際に重要な問題を見ることを妨げているという同じメッセージを見たからです。)

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

 ゴレンは女の子と一緒に上層に行く事は出来ませんでした。しかし、あれはゴレンが見た理想の姿です。本当にゴレンが伝達だけを理想とするのであれば、一緒にプラットフォームに乗るべきでしたし、上の人々に直接自身の苦しみや痛みを訴えるべきでした。
 しかし、作中でゴレンは空想のトリマガシに止められ、プラットフォームに同乗する事は出来ませんし、ただ「伝達が届いてくれますように」と願うだけの存在になってしまいました。
 この感覚を、制作側が共有しているというインタビューの内容は強烈です。「私たちが対処している集合的な愚かさが、実際に重要な問題を見ることを妨げている。」という言葉は、この映画を伝達として制作する際に払った多くの代償を物語っています。映画を視聴している者の耳元で、描写の意味を解説したくて堪らないが、それが不可能だという創作の虚しさ。

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

結論

社会風刺への風刺

I don't feel authorized at all to tell anyone what to do. The film only aspires to expose, not to indoctrinate or to lecture.(何をすべきかを誰かに言う権限はまったくないと思います。この映画は、教化や講義ではなく、暴露することのみを目指しています。)

https://collider.com/the-platform-ending-explained-netflix/

 この作品は『社会風刺への風刺』だと僕は考えています。社会風刺は社会に対する嘲笑という性質上、社会に認識してもらうことが作品としての前提になります。そのために、聖書を模倣、可哀想な女子供、グロテスク、「エキサイティングな表現」を演出する。売り上げに繋がらなければ、そもそも表現として機能しない。誰からも見てもらえない。そういった市場の暴露。そういうテーマを持った作品だと僕は解釈しました。
 本作は『資本主義への社会風刺』として見ると、内容は矛盾していて謎が多く、見ていても納得できません。表現としてのクオリティを落としてでも、表現を優先しなければならないという矛盾、監督の自嘲的な作品。それが『プラットフォーム』だと思います。

穴の正体

We started by having Goreng think this was going to be a walk in the park, as he stays in the pit willingly, but little by little comes face to face with the grim reality that is life.(喜んで穴の中に入っていくゴレンに、これは公園を散歩することになると思わせることから始めましたが、少しずつ、人生という厳しい現実に直面していきます。)

https://www.digitalspy.com/movies/a31942927/netflix-the-platform-ending-explained-director/

 『プラットフォーム』という作品の原題は「El hoyo」、直訳すると「」です。この穴というのは、監督にとっての「表現の比喩」であると解釈しました。誰でも参加する事ができ、外から見ると華やかだが、内に入ってしまえば失望が絶え間なく襲ってくる空間。認められて外に出る事が出来るのはほんの一握りで、多くの者は何も成せずに消えていく。それぞれが抱いていた希望は打ち砕かれます。穴の中の登場人物は全て、「表現」に閉じ込められ、一人の表現者として、自分の表現が儚く散る様を見る事になります。
 もし、『プラットフォーム』が社会風刺としての側面に特化し、女の子の描写を取り除かず、矛盾のない作品として成立させていれば、この作品はより多くの人に視聴され、より多くの賛同を集めたでしょう。しかし、そのために失われるのは、他でもない「表現」の本質的なテーマです。ゴレンが内部の連帯感を表現するために、他の者達を暴力で脅したのと同じように。

本当の分岐

What do you envision happening after the events of the film? Will the message be received?(映画の出来事の後に何が起こると思いますか?メッセージは届きますか?)
GALDER GAZTELU-URRUTIA: That's something that you should ask society. It's up to all of us .… It depends on whether we want to remain the most miserable species that have ever set foot on this planet or if we want to ...(それはあなたが社会に尋ねるべきことです。それは私たち全員次第です....それは、私たちがこれまでにこの惑星に足を踏み入れた中で最も惨めな種であり続けたいか、それとも...)

https://collider.com/the-platform-ending-explained-netflix/

 「パンナコッタルート」と「女の子ルート」のお話をしましたが、この作品の真の分岐はそこにありません。「この作品が何処に辿り着くのか」です。穴を「表現の比喩」としたとき、この『プラットフォーム』という映画そのものの結果も、一つの分岐として成立します。
 大事なのは、どのルートであっても、ゴレンや制作陣の労力は大して変わらないという事です(子供だろうがパンナコッタだろが、重傷を負った事に変わりはありませんし、撮影済みで編集までされたシーンを入れようが入れなかろが…)。その表現が伝わるかどうかだけが、結果を変えて、大きな違いを生むという事です。
 この作品が『資本主義の社会風刺』と認識され、本質は見抜かれず、駄作として社会から評価された時、この作品はバッドエンドを迎え、誰からも相手にされなくなるのです。
 僕は、どんなに優れた風刺であっても逃れられない、表現という業の中でもがき苦しむようなこの作品が大好きです。だから

「お願いです。誰か見てください。お願いです。誰かに伝わってください。」

https://filmarks.com/movies/87388

感想

食べ残し

 売れるために市場へ媚びながら、それでも本質的なテーマを失わず、自分達に出来る事をひたすら徹した制作陣への尊敬は言葉に出来ません。制作陣がこの作品の結果に無力を感じていたりするのであれば、僕はそれが悔しくてたまりません。
 聖書との繋がりを説明するのも良いと思いますよ。この作品を「売れる」「高尚な」「深い」作品にするために入れたであろう、誰からも分かりやすい考察要素。しかし、それはこの映画が聖書のテーマを引き継いだ物であると結論付ける理由にはなりません。『プラットフォーム』は明確に、「この作品である意味」を持つ作品で、他の作品に追従するようなものではありません。この作品は決して、他の作品の食べ残しなんかじゃないのです。

大好きですよ。『プラットフォーム』。

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