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これが「19年目のBtoB SaaS」で実践している要件定義プロセスだ【SaaSビジネス経験談 #10】

シナジーマーケティングのプロダクト「Synergy!❐」に関わる様々な職種のメンバーが、自身の経験を元に、ビジネスに役立つ情報をお送りします。 今回の筆者は、Synergy!の「使いやすさ」実現の推進を担っているUXデザイナーです。


 

・はじめに

私はSynergy!の企画・開発や、プロダクトマネジメントに携わるUXデザイナーの山本です。

リリースから19年目を迎えたSynergy!は、機能の運用・保守、顧客からの要望、新機能の搭載など、やるべきこと・やりたいことがいつも盛りだくさんです。

特に規模の大きい開発ではユースケースが多岐にわたるため、要件も膨らみやすく、判断も複雑になりやすいです。弊社でも気がついたらスケジュールや実現可能性に偏った判断をしていた...ということも少なくありませんでした。

そこで、現在Synergy!の大規模な開発では、顧客の利用状況を調査・分析し、ユーザー理解を深めた上で「ユーザーストーリーマップ(※)」を作成しています。それを用いて、機能が提供する価値や要件の優先順位を整理するようにしています。

※:ユーザーストーリーを時系列に、優先順位順に配置したものがユーザーストーリーマップです。エンドユーザーの行動とプロダクトに求める価値を時系列で整理し、それを実現するために必要な機能や要件をマッピングすることで、プロダクトの開発にかかわるすべてのメンバーが実現する価値の目的や優先順位を視覚的に捉えられるようになります。

出典:ユーザーストーリーマッピングとは?基本の進め方やおすすめのツールを紹介

この記事ではSynergy!の開発における要件定義のプロセスについて紹介していきます。

・19年提供しているシステムの要件定義プロセス

19年提供しているシステム(Synergy!)の要件定義は大きく以下のプロセスで実施しています。

1)初期仮説の構築
2)定量調査
3)定性調査
4)定量調査・定性調査の分析
5)ユーザーストーリーマッピング
6)大枠の機能要件の確定

 
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一つひとつ解説していきます。

1)初期仮説の構築

弊社の開発では、まず最初にざっくりとした仮説(初期仮説と呼んでいます)を立てるようにしています。

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顧客との接点を持つPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)、実現可能性を判断できるPdM(プロダクトマネージャー)、製品の品質を管理するQA、顧客の行動や要求を調査するUXデザイナーなど、異なる役割や観点を持つメンバーが集まり、1人の意見や考えに偏らないように意識しながら仮説を整理していきます

最初に仮説を立てておくことで、チーム内で目的やゴールのすり合わせができ、以降の調査や分析で、不足している仮説やギャップに気づきやすくなります

2)定量調査

定量調査は、主に顧客の操作ログを蓄積した利用状況データを元に、ターゲットとなる顧客の利用傾向や割合などを把握するために行います。真新しい機能を開発する際には類似している既存機能の実績を利用し、既存機能のアップデートの場合は該当機能の利用状況を確認します。

必要に応じてこれまで蓄積していた要望・フィードバックの集計や、売上実績なども活用します。何となく多い・少ない...といった感覚値ではなく、具体的な数値で把握することを大切にしています。

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また、漠然と全体の利用数や設定数を調べても「影響範囲が広いなぁ...」くらいしかわかりません。年度別や月別、顧客セグメントなどを掛け合わせ、定量情報から初期仮説を検証することが大切です。初期仮説で立てていたターゲットやユースケースから想定されるような利用状況なのか、大きく外れるような利用実績がないかを検証することで、初期仮説の見直しや後のプロセスである「定性調査」で確認したいことが明確になり、機能要件の解像度をあげていくことができます。

3)定性調査

定性調査は主にターゲットとなる顧客と接点をもつ社内の営業メンバーに、顧客のユースケースやワークフローをヒアリングし、顧客の行動や要求などを把握するために行います

BtoBでは顧客へ直接ヒアリングするためには、調整に時間がかかるケースが多いです。そのため、弊社ではまずターゲットとなる顧客に詳しい社内メンバーからヒアリングし、さらに調査したいことがある場合に顧客へ直接ヒアリングするようにしています。

ヒアリングでは以下について確認し、次の工程のユーザーストーリーマッピングに必要な要素を集めます。
・顧客のユースケース
・属性
・体制・ワークフロー
・作業プロセス
・課題・要望など

開発する規模にもよりますが、大体3〜5名にヒアリングすることが多いです。

4)定量調査・定性調査の分析

定量調査・定性調査の結果を踏まえて分析を行います。
弊社では調査で得られた内容を次の4つに分類して整理します。

①ユースケース:
製品を利用する目的、製品をどのように利用しているか、など

②属性:
会社の規模・体制、顧客(製品ユーザー)の役割、リテラシー、経験年数、など

③行為:
ワークフロー、作業プロセス、顧客(製品ユーザー)のタスク、など

④価値:
会社の目標、顧客(製品ユーザー)の目標、製品への要求、課題、要望、など

 

ユースケース・属性・行為・価値は、それぞれ初期仮説の各項目に対応しています。分析した結果と各項目を検証し、初期仮説の不足している部分やギャップを更新しながら仮説を確かめていきます。

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なお調査〜分析はUXデザイナーがリードしつつ、初期仮説を担当したメンバーで各工程を手分けしながら進めます。

分担・連携しながら進めることで、チーム単位でターゲットとなる顧客への理解を深めつつ、適宜初期仮説を検証しながら進めることができます。

5)ユーザーストーリーマッピング

ユーザーストーリーマッピングは定性調査で判明する、「ユースケース」「行為」を主に参照しながら以下のように行います。

1. 顧客の作業プロセスを付箋で整理していきます。複数の顧客像や作業プロセスが存在する場合は、無理にまとめずに分けて整理します。

2. 作業プロセスに機能要件をマッピングしていきます。まずざっくりとマッピングした後に、必須となる機能・任意となる機能で優先順位をつけていきます。

3. 作業プロセスに課題や要望をマッピングします。課題や要望をマッピングすることで、現在どの作業プロセスでどのような価値が満たせていないかを明らかにすることができます。

4. 2〜3をチームで検討・議論しながらユーザーストーリーマップを仕上げていきます。

参考記事:ユーザーストーリーマッピング(出典: https://www.agile-studio.jp/post/apm-user-story-mapping

6)大枠の機能要件の確定

最後にユーザーストーリーマップを元に大枠の機能要件を確定させていきます。初期仮説・定量調査・定性調査の分析結果・ユーザーストーリーマップをチーム全体に共有した上で、エンジニアと実現可能性も含めて検討していきます

これまでのプロセスで、ターゲットとなる顧客の理解や顧客の機能を利用するイメージはユーザーストーリーマッピングを経て検討しているため、機能要件の確定までスムーズに進められることが多いです。

・良かった点と今後の課題

ユーザーストーリーマッピングに取り組むようになったことで、規模の大きな開発でも「本当に必要な機能は何か」「顧客への価値提供につながるのか」など、顧客(製品ユーザー)のストーリーを軸に判断を積み重ねることができるようになりました。

その結果、大きな巻き戻しやちゃぶ台返しは起きなくなり、チーム内でも「どうすればもっと良い価値を提供できるのか」「そのためにできること(できないこと)は何か」を建設的に議論できるようになりました。

一方で工程が増えたことで、機能要件を確定させるまでの期間が膨らみやすいのは課題です。また規模の大きな開発はその分初期仮説の設計や調査・分析も複雑になるため、このユーザーストーリーマッピングの取り組みをリードできるメンバーはまだ少ないです。

今後も開発内容に合わせて工程を省略してみたり、ユーザーストーリーマッピングのナレッジを整理して、他のメンバーでも取り組みやすくしたりするなどの工夫をしていきたいと思っています。


いかがでしたでしょうか?
私たちの経験がみなさまのビジネスのお役にたてれば幸いです。

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