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なぜ「企業文化」が大切なのか?|カルチャーデザイン

皆さん「企業文化」と聞いて、一体どのようなものを思い浮かべるだろうか?

それはそれぞれのカイシャというものに空気のように存在していて、厳密言えば2つとして同じものは無い、法人におけるDNAや血液のようなものだ。しかし多くの人は「企業文化」というものに対して真に正面から向き合い、それが根本何であるか、なぜ大切なのか、どんな構造でどんな力学が働くのか、どのように浸透/維持していくのかという深い考察にふけることはきっと無いのだろう。

かく言う私も、そんな「企業文化」という概念に初めて触れたのは就職活動時代まで遡る。それは「組織風土」という呼ばれ方をしていて、どうやら会社によって全然違うものらしい、と。実際OB訪問で何人もの先輩社員に話を聞く機会があったが、研究室に篭りっぱなしの理系大学院生の自分には、結局その「風土」というものの手触りさえも感じることはできなかった。そして「風土」と呼ばれたものは、「企業文化」におけるひとつの構成要素でしかないということも、当然想像さえつかなかった。

あれから15年近く経った今、はっきりと言えることがある。「企業文化」というものは確かにそこに存在していて、100社あれば100社異なり、さらにそれ自体が長期的な企業の命運を大きく左右し、極端に言えば競争戦略上最も大切にしなければならない普遍的な投資対象であると。そんなつかみどころの無い概念的なものが、なぜにそんなにも重要だと言い切れるのか。様々な事例を踏まえながら、なるべくロジカルに、時にエモーショナルに紐解いていきたいと思う。


本ドキュメントの対象となる人、企業

「企業文化」というハイレイヤーなトピックを書く以上、必然的にこの投稿の対象者は経営者か、経営幹部か、もしくは人事責任者か、相当なモノ好きに限られるのだろう。また経営スタイルひとつとっても、極端に短期志向で一つのプロダクトドリブンの場合もあれば、中長期での永続的なビジョンドリブンな場合もある。ただし「企業文化」という特殊性を考慮すると、本ドキュメントのメイン対象は

× 短期的に成長してM&Aなどを目指す
長期的に価値を提供し続けられる会社を目指す

とし、企業のフェーズにおいてはコア事業が軌道乗った後とするが妥当と考える。後述するが、稼ぐ土台のできていない組織がいくら「企業文化」をこねくり回したところで、それは限られた経営リソースの戦略投資観点だと愚策になりかねないからだ。

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前提条件|競争優位とは?

「企業文化」を語る前に、競争優位を語らねばならない。事業を営む企業体であればほぼ例外なく競合他社との競争にさらされており、その競争環境を生き抜くことこそ中長期での事業の成功、ならびに企業の成功へと繋がる。では、企業が持つべき競争優位性とは何かと問われれば、

他社が簡単に真似できない強み。

という一言に集約できる。戦略論で言えば短期的には相対的なポジショニングであり、中長期で言えばオペレーションの強さが競争優位になると言われる。この短期的なポジショニングも、中長期のオペレーションも、残念ながら「企業文化」の影響下にある。どんなに優れた戦略も「企業文化」に食われ、逆に「優れた企業文化」こそが優れた中長期で真に優れた戦略となるのだ。この理由を、以下順を追って解き明かしていく。

なぜ「企業文化」にフォーカスが当たらないのか?

まず経営リソースの投資対象として「企業文化」を捉えた時、プロダクト戦略やテクニカルなグロース/マーケティング論、ファイナンスなどに比べて「企業文化」は圧倒的にフォーカスが当たることが少ない。その理由を、Airbnbのco-founder & CEOのBrian Cheskyは次の3つに集約している。

1. 語れることが少ない
2. 定量的に測れない
3. 短期的に成果がでない(これが一番根深く重要、とも)

まず、特に日本のスタートアップ/ベンチャー界隈においてはそもそも「企業文化」というものが何であるか、なぜ大事か、どのように維持/浸透させていくべきか、など語れることが少なく、さらに体系的にまとめられたものが極端に少ない事実がある。逆にシリコンバレーにおいてはAmazon、Netflix、そしてAirbnbなどが「企業文化」という観点で論じられることも少なく無く、スタンフォードにおけるスタートアップカリキュラムにも「いかに企業文化が大切か」という講義があるぐらいだ。そしてまさにそれ自体が「企業文化」が特性として併せ持つ「定量的に測れない」「短期的に成果が出ない」という2点が要因となっている。

基本的に自分の経験則の延長線上で話を進めるしか無いのだが、例えば自動車業界においてはグローバルで成功し続けるTOYOTA、トップの不祥事あえぐNISSAN、魅力的なデザインで車好きを魅了しているMAZDA、ものづくりの底力で好業績を維持するHONDA、これら各社の長期的な浮き沈みは、乱暴に言えば「企業文化」の強弱が関係していると言っても言い過ぎではないだろう。あくまでマクロの視点で見る、それが「企業文化」のやっかいな部分でもあり、真に重要な部分でもあるのだ。

「企業文化」とは何なのか?

そもそも「企業文化」とは何なのか、どう定義すべきなのか。
本ドキュメントでは「企業文化」を

その企業が信じるもの、そして
それに基づき判断/行動することの全て。

と定義する。さらに、競争優位性が

他社が簡単に真似できない強み。

であるならば、その強みの源泉となるような「企業文化」とはすなわち、

集団が特定のもの力強く信じ、
それに基づき集団的判断、行動、学習した結果が
独自性持ったアウトプットを中長期で生み続けるもの。

ということだ。

数万年前に圧倒的競争優位を持った人類

なぜ「文化」がそれほど深遠なテーマかつ優位性となりうるのか、少し人類の歴史を紐解いてみたい。

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爆発的に売れたサピエンス全史を読んだ方ならお分かりだろう。数万年前に、突然変異の認知革命によってホモ・サピエンスだけが

「虚構」

を信じる能力を得られたからだ。「虚構」とはつまり、あるかないか分からないものを空想し、それを信じる力を得ることによって「想像上の現実」を生み出す能力と言える。
これにより我々の遠い祖先であるホモ・サピエンスは、血縁や親密性のみで繋がれる群の限界(概ね〜150人 = ダンパー数としても有名ですね)をはじめて突破し、集団的現実によりどの種もなし得なかった何千、何万もの組織の力を束ねることに成功した

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個の力を束ね、その力を最大限に発揮し、独自の価値発揮し続ける源泉は
その集団が何を信じて、判断/行動しているか(=企業文化)」であると言える。数百、数千の人々を束ねて中長期で勝ち続ける法人であるためには、どの法人よりも優れた独自の文化を持つ必要があると言えるだろう。

企業文化の逆三角形

「企業文化」という掴みどころがない空気みたいなものを、ある種のフレームワーク的にまとめてみたいと思う。「企業文化」は次のような逆三角形で表すことができる。

「企業文化」=
その企業が信じるもの、そして
それに基づき判断/行動することの全て。

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最も長い時間軸でいうとその企業体が実現したい「世界」があり、それが社会に与えるインパクトという点で左右に大きく広がっている。次にその世界を実現するために心に決めた「使命」がある。使命というレイヤーになってはじめて具体的なプロダクトに落としこまれると考えていい。さらにその下、短期的なものに目をやると、その使命を果たすために、日々判断したり行動したりする上で大切な「価値観」「行動規範」が存在する。

くどいようだが、これがつまり
その企業が信じるもの、そして
それに基づき判断/行動することの全て。
という企業文化の定義そのものだ。

そしてこれは、こんな馴染みの言葉をそれぞれに代入することができる。

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Visionはなぜその企業が存在しているのか、つまりWHYに該当する究極的な部分であり、そのWHYを実現する手段としてのMissionがHOWとして存在する。つまり、WHYのVisionが軸足となり、HOWのMissionはピボットしたり複数存在しても良いのだ。組織が大きくなれば、部門別や事業別にいわゆるサブカルチャーが自然と対等してくるが、このMissionのダイバーシティの範囲内でサブカルチャーを内包させておく、というのもまた大切となる。

さて、このVIsion、Misson、Valueを明文化している企業もあれば、そうでない企業もある。しかし、VIsion、Misson、Valueを明文化するかしないかにせよ、これらは全ての組織において空気のように存在している。明文化している企業でも、実は言語化されていない文化が深層心理に横たわっている場合がある。むしろ、そういった企業の方が多いのかもしれない。

企業文化はデザインされるべき人工物

初めは創業者の信念や価値観だったものが、組織の成功と集団的学習
を通じて深層心理に刻み込まれる。
故に拡大する組織において文化が正しく機能するためには
判断/行動レベルまで注意深くデザイン
されなければならない。

個人的には成長する組織を「人体」に例える。「組織は生き物」とはよく言ったもので、まさに組織はアメーバのように増殖し、有機的に影響を及ぼしあい、コントローラブル/アンコントローラブルの両面が内包される生命体そのものだ。
例えばValueは企業という身体におけるDNAや流れる血液のようなもの。人間のそれと同じように、企業それぞれに異なる配列、血液型がある。
独自の企業文化を維持するため、成長する身体に合わせて末端まで血管をはりめぐらせ、血圧を適正に保ち、血液の純度を維持する努力をしなければならない。
創業者は強烈な心臓として熱い血液を細部まで浸透させ、組織を生きたものとするのだ。

優れた企業文化とは何か?

「企業文化」がデザインされるべき人工物だとした場合、では一体「優れた企業文化」とは何なのかを理解しなければならない。

ひとつ例を挙げよう。最近ひときわ好調で話題の多いNetflix、実は1997年設立なので創業20年以上も経つ会社だ。20年の歴史で、実に2度の不況と2度の事業ピボットを経て、ポストを利用したビデオレンタルサービス会社だったスタートアップは、今や世界ナンバーワンクラスの動画コンテンツメーカー兼プラットフォーマーとなった。

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参照リンク

もちろんそれぞれのターニングポイントでのブレークスルーをミクロに見ていけば様々な戦略論に帰結するかもしれないが、マクロに見れば「優れた企業文化」がこの荒波を乗り越えさせたと言っても過言ではない。

なぜなら、現に彼らは「企業文化」を注意深くデザインしてきた。

FacebookのCOOのシェリル・サンドバーグが「シリコンバレーから生まれた最高の文書」と讃えたことで変に悪目立ちした感は否めないが、このSlideshareで2000万回近く閲覧された(現在はコーポレートページへ以降)「Culture Deck」と呼ばれる彼らの企業文化をまとめたスライドは世界中の経営者やボードメンバーに「企業文化」とあらためて向き合うきっかけを与えた。
そして、意外と知られていないのが、このスライドは10年以上も前から社内のパワーポイントで従業員を巻き込んでアップデートされ続けてきたという事実だ。勝つべくして勝つその道のりの背景には、力強い「企業文化」の後押しがあったのだ。

そして当然のごとく、彼らの企業文化をなぞることがどの会社にとっても「優れた企業文化」になるはずは無い。「企業文化」の本質は簡単には真似できない独自の信念、集団的判断や行動であり、置かれた環境、時代背景によって「必要となる企業文化」が異なるからだ。故に、残念ながら「優れた企業文化」を一意に定義することはできない。そこに一般解は存在せず、特定の文脈に埋め込まれた特殊解を求めるしかないと言える。

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