若手メンバーが立ち上がるセールスイネーブルメント~OJT依存からの脱却~
はじめまして。
シナジーマーケティングという会社で法人営業をしております、西村 将之介(のすけ)(@sym_nishimura)と言います。
本記事は「#セールスイネーブルメントカレンダー」企画の投稿です。
※当初は執筆予定者に入っていなかったのですが、主催者の橋本さん(@hashimoto_pres)にご相談をして、入れていただけることになりました。
橋本さん、見ず知らずの私に機会をいただき本当にありがとうございます。
企画の概要に関しては下記記事をご確認ください。
(Twitter素人の私からすると有名人ばかりで恐れ多いです)
今回私からは、今年自社内でどのようなことに取り組んで来たかを、セールスイネーブルメントの観点で切り取って皆様にお話出来ればと思います。
当社の期が1月~12月なので、ちょうど1年を振り返るような形になります。
このような方々には特に、ご参考いただけるのではないかと思っています。
若手メンバーを独り立ちさせたいと考えておられる方
営業マネージャーに抜擢されて、どのように体制を整えるか見当が付いていない方
実際の取組みの一例を知りたい方
ではよろしくお願いします。
着任当初に考えていたこと
まず、簡単に会社と私の紹介をします。
シナジーマーケティングは、顧客管理のデータベースとメール配信の機能を中心としたCRMのクラウドサービス『Synergy!』を提供するSaaSベンダーです。
私はこの会社に新卒で2016年に入社し、現在6年目になります。(年齢で言うと29歳)
ざっとこれまでを振り返ると、
1年目:データ分析の部署で先輩のアシスタント&レポーティング
2~3年目:既存クライアントの営業を中心に利活用の促進と取引拡大のイロハを学ぶ
4~5年目:現場リーダーとして重点クライアントの深耕活動と社内メンバーへのナレッジ共有に目を向ける
6年目:営業マネージャーを拝命(←今ココ)
今年から営業マネージャーとなり、チームを率いて目標を達成する役割に変わりました。
もう少し詳細な紹介はこちらの記事にも書いていますので、お時間ある方はご笑覧ください。
話を本題に戻します。
当初は社内での体制変更もあり、事業部内の営業メンバー(マネージャーと補佐除く)のうち、入社2年目までの新卒メンバーが約半数、しかも今年から初めて営業に携わるというメンバーがほとんどの状況で、また直近数ヶ月での中途人材の入社も見込めていませんでした。
例えば、このような状況だったとイメージしてもらえれば分かりやすいでしょうか。
そのような中で、去年くらいから目に触れるようになっていた「セールスイネーブルメント」の考え方を活かして状況を何とか打開しながら、目標達成に向けての道筋を作ることを決めました。
もちろん(と言ってはお恥ずかしいですが)自社内にイネーブルメントを司る部署は存在せず、うまく関係者を巻き込みながら優先順位の高いところから着手をするという船出です。
始めに取り組んだこと
営業マネージャーに着任することになり、最初に取り組んだのはセールスイネーブルメント領域における「定義設定」と「現状整理」でした。
セールスイネーブルメントの定義設定
私が初めて目にしたセールスイネーブルメントの定義は、この領域で本も出版されている第一人者である、山下さんの緑本に書かれている下記でした。
幸いにも、「成果を出す」という意味では今回のイネーブルメント自体が営業組織内でのスタートだったのでそこはブレませんでした。
(というかマジで余計なことしている暇は無かった)
ただ、当初は前述の現状と課題感を踏まえて、「若手」社員の「早期戦力化」にフォーカスをし、下記のように定義をしました。
カギカッコ内の詳細は以下のとおりです。
『初期成果』…商談~受注までのプロセスを一人で回せるようになる
『早期に』…現在の立ち上がり(約9ヶ月程度)を短期化する
『若手』…新卒入社後、営業に配属になったメンバー
本来はもう少し広げて考えるべきかもしれませんが、当初は本当に困っているポイントを解決するため、的を絞って取り組みました。
※実は初期成果の部分も、当社が併せて事業を営んでいる「デジタルマーケティング支援サービス領域」のスキルはスコープから外し、「クラウドサービス領域」の営業スキルに焦点を当てました。
セールスイネーブルメントの現状整理
さて、何に向けて取り組むかの輪郭は定まったものの、具体的に何を取り組むべきかは雑然としていました。
ただ、以前から何もやっていなかったわけではないので、
過去の取り組みの精査
今後優先的に着手すべきもののリストアップ
を実施し、「今までやったことを無駄に繰り返さないこと」と「着手することで早く目標に近づけるもの」は何かを洗い出すことを実施しました。
これらは、予め行っておいて良かったなと思います。
軸となったのはスキルマップ
では、何があれば掲げた内容の達成に近づけるのか。
そこで今年本格的に着手したのが「営業スキルマップの作成」でした。
具体的には、
1.受注までに必要なスキルの洗い出し
2.各スキルのカテゴライズ
3.スキルごとの評価要件の設定
4.スキルアップのための方法 ←ここが補強していくべきコンテンツになる
という風に進めていきました。
※この辺りの具体的なプロセスは、もしニーズがあれば別の記事で詳述したいと思います。
そうして出来たスキルマップのVer.1がこちらです。
※見にくいのはご容赦くださいw
大きなくくりとしては、「ビジネス基礎」「自社理解」「営業スキル」に分類し、それぞれのスキルにおけるレベル定義を1~4まで用意しました。
これを基本としながら、まずは全員が「レベル2」(理想は「レベル3」)の状態に持っていけるように、どのようなコンテンツを整備すべきかを議論していきました。
作成をしてみた所感としては以下の通りです。
項目の内容が具体的で回答がしやすく、現在の立ち位置が関係者間で把握しやすい
上記に伴い、各人が克服すべき優先課題が可視化される
一方で、見る人によって評価が異なりやすくなるため、記入後のすり合わせは必須
最初は項目数も多く、各メンバーとのすり合わせにそれなりに時間は取られるのですが、一回すり合わせてしまえば後は「評価がレベル1の項目」「自己評価よりOJT評価が低い項目」を優先的に会話が出来ます。
メンバーとしても「自分が何をすべきかの方向性が立てられて良い」という意見がありました。
現在では、使ってみた意見を踏まえてそれぞれの小項目ごとに評価指標を整備し直して(0~4で新たに設計)、活用を続けています。
1年間取り組む中で掲げていたテーマ
実際のところ、育成面と業務面を両立させながら取り組むのはそれなりにハードでした。
※プレイングマネージャーとして、クライアント対応とグループ運営業務を並行して回していました。
その中で、自分なりにテーマに掲げていたことがあります。
それが、
「OJT依存からの脱却」
です。
シナジーマーケティングでも、以前から営業メンバーの立ち上がりはOJTによる育成がメインでした。
しかし、教える側のメンバーとしても自身の目標を持ちながらの育成は負荷が高くなりやすい上に属人化は避けられず、特に今期のような現状(若手メンバーの比率が高い)だと、OJTだけでやり切るには限界があることは目に見えていました。
そこで、OJTのような「1:1」ではなく、資料や動画などの「1: n 」でスケール出来るコンテンツをどれだけ整備出来るかに心血を注ぎました。
整備を進めていく中で意識していた基準が2つあるので、ご紹介します。
複数のメンバーが抱えていそうな(つまずいていそうな)悩みかどうか
テキストや動画で表現して一定伝わりそうかどうか
複数のメンバーが抱えていそうな悩みかどうか
若手メンバーから意見を聞く際に、「それは他のメンバーも感じていそうな悩み/困りごとかどうか」は常に意識をしていました。
共通した悩みであればあるほど、それをコンテンツ化することによって助かる人がたくさんいるということです。
シンプルですが、常に一歩引いた目線で話を聞くようにしていました。
テキストや動画で表現して一定伝わりそうかどうか
今でこそ、営業と科学という観点は少しずつ距離が近づいていますが、特に営業という職種のスキルはその場の状況に合わせて伝えないとなかなか伝わらないことは一定あると思っています。
実際取り組んでみての感覚値としては、「6割理解してもらえそう」であればコンテンツ化を検討するようにしていました(分からないよりは分かる寄り?)
とはいえ、ここは自分自身の表現力の拙さもあると思っているので、あくまで観点として持つことを心がけています。
実際に取り組んだことの紹介
ここからは、具体的に取り組んで来たことを紹介したいと思います。
それぞれ触れていきます。
基礎インプットコンテンツの整備
以前から、新卒や中途の方向けの営業部門配属後のコンテンツは点在していたのですが、それらを共通コンテンツとして整備しました。
これらの多くは、事業やサービスの紹介、ビジネスモデルの理解、事業部内での業務フローに沿ったインプットなど、年を経ても大きく変わらない内容が中心となるので、ドキュメントと併せて動画コンテンツ化しておくと翌年以降の工数が大幅に削減出来るためおすすめです。
各種ロープレコンテンツ整備
営業としては避けて通ることの出来ない「ロープレ」も、型の設定と見本動画の用意を行いつつ、最初のタイミングで動画を見ながらポイントを伝えることで自主練しやすい環境を作りました。
例えば、以下のようなコンテンツの整備を行いました。
会社紹介
製品説明
製品デモンストレーション
ヒアリング
事例紹介
各種ケーススタディコンテンツ整備
最初のうちはいかに経験値を増やすかが勝負ということで、実践に近い形での社内検討会を色々な切り口で立ち上げました。
中には、若手メンバー自ら起案して立ち上げてもらったものもあります。
インサイドセールスからもらったアポの与件を見ながら進め方の検討会
クライアントごとの最適な運用フロー検討会
クライアントからの想定質問への切り返し検討会
メンバーの悩みを募集してみんなで解決
サクセスシェアリング(事例共有会)
外部研修の実施
現場ではなかなか手が回らないことのひとつに、「ビジネスの基礎的なスキル」のインプットがありました。
特に、当社のクラウドサービスはいわゆる「horizonral SaaS」なだけあり、業種業界の縛りが無く、クライアントの抱える課題も多様なため、発言内容を正確に把握し紐解いていく「論理的思考能力」が不可欠でした。
そこで、この分野に関しては外部講師をお招きして、月に数回研修形式で、
物事を「分けて」「段階的に」「具体的に」考えることを中心に鍛えていただいています。
私自身も数年前に同じ研修を受けたことがあるのですが、ひとつの間接効果として、同じ研修を受けた者同士、「共通言語」で話が出来るというメリットがありました。
このように、研修を通じて学んだことを実践でOJTと一緒に反芻していくというサイクルを作ることで、メンバーの体得は早まったように思います。
他にも、会社として人事主導で「Schoo」や「コラーニング」などの教育コンテンツの導入を進めていたので、それらも活用しています。
アウトプットの習慣化
これは、今年始まって間もないタイミングで、ジェイさん(@junta_suzuki
)のclubhouse朝会に参加して、マネージャーになってからの悩みを相談した時にもらった言葉がひとつのきっかけになりました。
これは自分が「1: n 」の意識を強める機会のひとつでした。
以来、Slack内の分報やDocbase(ドキュメントツール)で自分自身の議事録や考えをひたすらたれ流すように心がけ、メンバーからの相談が来た時にそれを引用して渡したりするようになりました。
また、メンバーにも自分が取り組んだことは積極的に共有を促しました。
特に議事録をDocbaseというオープンな場で共有するようになったことで、事前準備のアドバイスからネクストアクションの設定までのすり合わせと可視化が格段にしやすくなりました。
OJTを行う上で心がけていたポイント
ここまで、「1: n 」を意識して取り組んだことを書いてきましたが、
もちろん、現場での「1:1」の指導は欠かせないと思っています。
(むしろ、指導に時間を使うためにどれだけコンテンツで効率化出来るかが勝負でした)
そんな中で、自分なりに意識したポイントについて紹介したいと思います。
目指すべき位置を共有する
若手メンバーにとって、最初の頃はただ目の前のことをこなすことに必死になりがちで、知らず知らずのうちにしんどくなってしまうケースがあります。
そこで、初期のタイミングで
どのようなスキルを身に着けていって欲しいのか
クライアントにとってどういう存在になって欲しいのか
どの時間軸でどういうことが出来るようになっていると良いか
自分自身はどのように成長してきたのか
などを伝えることで、日々の業務に前向きな意味合いを与えるきっかけを作っています。
その後も、案件をフォローする中で折に触れて伝えていっています。
「見ている」感を作る
リモートワークが中心になったことで、オフィスで隣に座って常に声がかけられる環境は以前に比べて作りにくくなりました。
「分からないことが分からない」時期の若手メンバーにとっては、なおさら不安に駆られるもの。
そんな中でも、「気にかけてくれている」「見てくれている」感を作るために、特に最初の頃は
分報で小さなことでもリアクション/コメントする
議事録を確認しながら自分がフォローしていない案件でも様子を聞く
など、些細な反応を意識していました。
ちょうどこのようなツイートも見かけましたが、本当に減るものじゃないので、おすすめです。
また、緊急事態宣言中は控えていましたが、それ以外の時期は週に何度かタイミングを合わせて出社することでオフラインでのコミュニケーションも取るように心がけていました。
とにかく具体的に例える
実践に落とし込んでいくためにはお互いに「分かったつもりにならない」ことが大切。
そこで、色々な例えを使って何を意識すべきか、何がポイントなのかを伝えることを心がけていました。
例えば、
製品デモは3分クッキングのように考えてみよう
初訪準備は競馬を予想するように仮説を並べてみよう
など。(少しクセあるかもですがw)
相手の興味ある事柄で例えていくことで、より勘所をつかんでいく手応えも得ることが出来ました。
小さな成功体験を積んでもらう
初回訪問でうまくクライアントからヒアリングが出来た
準備してきた情報がクライアントに喜んでもらえた
クライアントの要望に対して、自社としての落とし所を作ることが出来た
クライアントの希望通りに納品まで進行することが出来た
売上など大きな目標の達成ももちろん大切ですが、最初は「easy win first」を重要視して向き合うようにしています。
自分自身で手応えを掴めると、人間不思議なもので意外と欲が出てくるものです。
そのきっかけを与えるために、「準備と想定のフォローアップ」と「出来たことのクローズアップ」を大切にしていました。(これはセットだと思っています)
こうして書いてみると、甘やかしすぎのようにも見えてきましたが、
私の中では、最初の頃にお世話になったマネージャーの、
という言葉に影響されているのかもしれません。
自分から主体的に取り組んでもらい、自走するための水やりをしているような感覚です。
実際の成果と振り返り
といったようなことを1年間続けてみて、じゃあ一体どのような成果が見えたのか、ということを振り返ってみたいと思います。
2年目メンバー(4名)の成果 ※今年1月から配属
<定量>※2021年の1~3月、9~11月を対象に比較
・クラウドサービスの販売件数71%UP
・行動KPI(新規案件の創出件数、クライアントとの商談回数)もそれぞれ5%、77%UP
・スキルマップで、全員が全項目「2」以上を記録
<定性>
・一つ一つの商談を主体的に進める意識の向上
・常にゴールイメージとネクストアクションを置いた商談設計
1年目メンバー(5名)の成果 ※今年6月から配属
<定量>
・クラウドサービスの初受注を経験
・スキルマップで、平均して8割の項目で「2」以上
<定性>
・商談同席時に同席者がフォローに入るシーンが配属時点に比べ減少
・積極的なインプット/アウトプットの習慣定着
こうして見てみると、我ながら良く頑張ったと自画自賛したくなります。w
何より、メンバーが自身でクライアントに対して「ありがとう」の言葉をいただけるようになったり、自信を持って動けるようになった姿を見ると、1年間頑張った甲斐は充分に感じられます。
とはいえ、今後に向けて課題も多いです。
中谷さんのnoteにもあったように、前提となる「営業プロセス」自体がまだまだ自社視点で設計されてしまっているのでそのテコ入れなど、マクロに視点を広げた時にやるべきことは尽きません。
ただ、だからこそ、セールスイネーブルメントは奥深くやりがいがあるものだと思っています。
おわりに
ここまで、あたかも自分中心に頑張ったかのような書き方になってしまったかもしれませんが、社内の色々な方に助けてもらいながらなんとか1年やってくることが出来ました。
この場を借りて、本当にありがとうございます。
また、参考にさせてもらった社内外の情報は数知れません。
今まで埋もれていて気付かなかった情報が社内にあったり、SNS上で流れてくる情報から人知れず学ばせてもらったことばかりです。
インプットとアウトプットの往復を繰り返すことで、メンバー以上に自分が学ぶことが多かったように思います。
長くなってしまいましたが、このお話がこれからイネーブルメントに取り組まれる皆様や1つの事例としてのご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
セールスイネーブルメントカレンダー、まだまだ続きます!
西村 将之介(のすけ)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?