アスリートは自分自身でブランディングする時代

 今回はスポーツ大国アメリカのトレンドトピック「NCAA, Fair Pay To Play Act, Name, Image, Likeness」を例にアスリート自身のブランディングについて話したい。

1.  大学生アスリートの収益

 「アメリカの学生スポーツ」と聞いて、商業化しているイメージを抱く人も多いだろう。NCAA( 全米大学体育協会)はTV放映権やチケット収入、学生アスリートの肖像権を使用した商品等で毎年数百億円を稼ぎ出している。しかしその利益は学生アスリートへ直接分配されることはなく、奨学金制度のサポートに留まっていた。

 そんなアメリカでは近年、学生アスリートの肖像権は学生本人のものだという論調が高まり、これまでの制度に変化をもたらすべく異を唱える活動が活発になってきた。カリフォルニア州では2023年から施行される"Fair Pay To Play Act"という法案が2019年に可決。フロリダ州でも今年ロン・デサンティス州知事が同様の法案に署名し、2021年から州内で学生自身の肖像権を用いた商業活動を可能となる。

 これにより学生アスリートたちは、自身の名前や写真を使用していたゲーム会社や、ユニフォームなどの衣服を提供するアパレルブランド、飲料メーカーなどとエンドースメント契約することができるようになり、相応の報酬を受け取ることが可能となった。まさに今、学生アスリートを取り巻く環境は変革期を迎えようとしている。

2.  学生アスリートのブランディング = Name, Image, Likenessの最大化

 カリフォルニア州やフロリダ州以外にも、多くの州で改革の動きが活発だ。先行者利益を勝ち取るべく動き出したのがネブラスカ大学。時代の変化に適応するように、米Opendorse社と共同で全米初の学生アスリートの肖像権である「Name, Image, Likeness (名前、写真、高感度)」をテーマに用いたマーケティングプログラムを開始する。

 このプログラムでは同大学に所属する学生アスリートの認知度拡大、PR戦略、ビジネスとしてのSNS戦略など、自身のブランドをコンテンツに落とし込み価値を最大化する取り組みが行われる。これは全ての学生アスリートがコンテンツオーナになる時代の到来とも言える。

 学生はこの魅力的なプログラムを通し、自身のアスリートとしてのブランド構築手法やビジネス&マーケティング理論を実践的に学ぶことができる。大学側もプログラムを確立しアピールすることで、優秀な学生アスリートを得ることができ、一挙両得である。

3.  アスリートブランディングとコンテンツ

 アメリカでは学生アスリート自身が自分たちの価値を主張し、新たな価値観を勝ち得た。商業活動を認められた学生アスリートは、学生でありながらビジネスとして企業や顧客と向き合いリアルなスポーツマーケティングを学ぶことができる。これらの経験は彼らのキャリアにも大きく作用していくだろう。今まではプロ一択であった学生が、優秀なマーケターやビジネスパーソンとしての才覚を発揮し、他の分野で成功する可能性を秘めているのだ。

 また、認知度に関わらず学生アスリート自身がブランドオーナーとして価値を高められれば、有名選手のように独自ブランドを設立し商品を販売する機会は増えるてくるはずだ。スポンサー企業はよりカスタマイズされたパートナーシップを結ぶことができ、その選手に合ったユニークな商品ブランディングを実現し、インプレッション向上へとつながっていく。

 コロナ禍においてもアスリートの力強い発言力は印象に残った。それはアスリートがもつ「信頼」「共感」といった独自のブランディング、価値を私達が自然と認識しているからではないだろうか。

 日本では、認知度があるにも関わらず自身のブランドを設計し、コンテンツを発信しているアスリートはまだまだ少ない。シーズナルに喚起しやすい特性を持ったアスリートの声は価値が高く、社会や経済を動かす力すらある。アメリカの学生スポーツのトレンドを見ても、その独自の価値をアスリート自身がコントロールし、最大化することが当たり前になる時代がすぐそこまでやってきているのかもしれない。


[参考文献]
Newly Passed California Fair Pay To Play Act Will Allow Student Athletes To Receive Compensation
Jack Kelly
Forbes

Florida name, image, likeness bill now a law; state athletes can profit from endorsements next summer
Dan Murphy
ESPN

Nebraska prepares for student-athlete branding by partnering with Opendorse
J.Brady Mccollough
Los Angeles Times

How Much Is NIL Worth To Student Athletes?
AJ Maestas, Jason Belzer
ADU


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