見出し画像

"心理学に出会えた喜び"を伝えた日


ここ2日間、オープンキャンパスのスタッフをしていた。


9:30~16:00、お昼休憩は実質12:10~12:50くらい。
でも、なんだかんだ15:30ごろには勤務も終わっていた。

これまでで1番長い勤務時間。
だけど、人生でいちばん楽しかったバイトだった。



「毎年、オーキャンスタッフがきっかけで友達の輪が広がったりします。ぜひ新しい出会いを楽しんでください!」と事務の人から言われるも、もう1人のスタッフも友人で(ちなみにnoteやってる)、配置先の企画はゼミの教授が運営するブース。みんな、身内。新しい出会いもへったくれもなかった(不満はない)。

友人と新しい顔ぶれが半々くらいの案内係とか個別相談とかやってみたいみもあったけど、私は教授LOVEだし、何と言ってもゼミ生なので、配置には何の不満もない(大事なので2回アナウンスしておく)。

私が担当した企画は「生理心理学の実験器具展示ブース」。脳波計、fNIRS、皮膚電気活動計測装置 を展示していた。

コロナ以前は、脳波計測の「体験型」だったコンテンツだが、このご時世なので泣く泣くの「展示」。正直、ハト実験とか、高齢者疑似体験とか、アイドル診断とかの他のブースと比べると、コンテンツ力は弱かった。

ただでさえ生理心理学は「理系」「数学要りそう」「難しい」と合唱されがちな分野。最初から「ここ行きたい!!」なんていう物好きはごく稀だ。パンフレットの通し番号でたまたま【1】と振られていた恩恵をモロに受け、「興味ないけどせっかくだから1番から順にとりあえずまわってみるかー」みたいな位置付けのブースだった。

おまけに同じ廊下沿いに並ぶはずだったロボットの企画が急に当日中止になったものだから、人流がおもしろいくらい偏っていた。
朝イチがピークで、閑散期は悲しいくらい人が来ない。たまに来たかと思えば3人で対応するには微妙に多い人数で、もう、波がすごい。

その中で、私たちの説明を聞けば聞くほど目が死んでいく人と、目が輝いていく人がハッキリ分かれた。



今回スタッフを引き受けたきっかけは、1時間につき1000円分の図書券がもらえて、お昼ご飯はミール券が500円分/日ついてくるからであった。(ちなみに食堂にあまり惹かれるメニューがなくて、407円のカツ丼を2日連続で食べたことや、2日で11000円もらえる図書券で原田マハさん買い漁ろうとしていたのに、その図書券が手元に届くのは9月末かもしれないことはまた別の話。)

もちろん心から心理学に興味を持っていて、自分がいる大学の心理学部が好きだから、その魅力を1人でも多くの人に伝えたいという意識も持っていた。


だけどいざスタッフに入って、話せば話すほどに目が死んでいく人を見たときや本物な知識を持つ教授の前で、自信がないあまりに自分の説明を偽物だと感じたとき、「この学問の魅力が伝わらないのは悔しい」と思ってしまった。目が輝いてくれる人に出会ったとき、「私はこんな人を増やしたい」と純粋に思ってしまった。


1日目、1回目の説明を終えてから私は必死で工夫を重ねた。

まずは実験器具の使い方や原理だけでなく、それぞれの道具はなんのために使われるのか。

次に、「生理心理学」自体の魅力を伝えるために、心理学全体の中での位置付け、他の心理学との差異は何なのか。それを示すためにホワイトボードに図を書いた。




心理学という学問の特性上、何をやっているのか?認知心理学と社会心理学とは何の差なのか、行動分析ってなに?ということは、学部外の人からは分かりにくかったりする。

この2日間で、心理学自体に興味を持ってくれている子にも何人か出会った。
「質問なんでも受け付けます!」というと、「認知行動療法の”行動”の部分を簡単に研究する方法を教えてほしいです」「行動分析ってどんなことするんですか?」と全く専門外のことを聞かれるケースもあった。

もちろん適切なところへ行って知ることができるものよりは、質も量も低い回答であろうが、心理学部にいたとしてもちゃんと授業を理解できていないと答えられないであろうレベルのことは回答出来たと思う。

伝えようとすればするほど、自分の専門についてはまだまだ未熟であること、専門以外の心理学については意外と身についていたこと、そしてその差は求めるレベルに対する満足度の違いであることに気づいた。



1日目、教授からいただいていた参考資料をもとに色々工夫したものの、次の日に備えて、昨年受講した「神経生理心理学」のレジュメをファイリングしてあるファイルをバッグに投げ込んだ。この春受講した「応用認知心理学」の該当部分を読み漁った。

2日目の朝の電車。それでもまだ足りない、何かが足りない、と思って、考えた。大学の最寄りに着く1駅前の駅で「資料を作ろう」という結論に達した。

オープンキャンパスに来るレベルに志望している大学は、入学前にはキラキラして見えるだろう。その場に踏み込んだ証が1つでも増えたら嬉しいだろうと思ったのだ。あとは純粋にただでさえ小難しいことを語るブースなのだから、補助が必要だろうとも思った。

総作業時間はおそらく1時間行くか行かないか。
ほとんどをキャンパスに着いてから急いで作った超絶簡単な資料。
入学したら学ぶことになるし、口頭で詳しいことは聴ける。
だから本題を聞く前に「これ、案外おもしろいかもな。ちょっと気合い入れて聞いてみよう。」と思えるような、学んだ先にどんなことに活かせるのか?どんなところがおもしろいか?を重視して、導入レベルのことだけを書いた。
(身バレしそうな部分はカットしましたが、ご興味ありましたらぜひ!↓)



久しぶりに賃金を気にせずに働いた。
生徒会時代のように、文化祭の時のように、ただただ一生懸命だった。


朝イチ組には配布が間に合わなかったり、カラーで作ったのに白黒だったり、ホッチキスは自力で留めたり。色々あったけど、すごく楽しかった。


それほどまでにどうしても、生理心理学の魅力を伝えたかった。元々感情やコミュニケーションといった社会心理学がやりたくて入学した私を、ここまで虜にした学問の魅力を、生理心理学だけでなく万遍なく心理学全体に魅力を感じている私が伝えたかった。


生理心理学は、簡単に言えば、一般的に「心理学」と聞いて浮かべるであろう臨床や"人の気持ちの理解"といったことの裏付けができる学問だと私は思っている。

例えば、性格診断。
あれはアンケートに主観的に答えて、そのデータと「人間ってこの場合大抵こう行動するよね/こう思うよね」という心理学上のデータや心理状態を照らし合わせて結論を出す。

一方で、生理心理学ではアンケートの代わりに実験で、自分でコントロールできない脳波や汗といった、身体反応をデータとする。

アンケートでは嘘がつけてしまうけれど、身体反応はコントロールできない分、嘘がつけないし、人間の身体的メカニズムである以上、基本的に普遍だ。そういったデータを根拠に人間の心理について結論を出すことができるのは、生理心理学ならではの強みだと思っている。

生物学との違いは、人間の身体構造やメカニズムを知るだけでなく、それらと心理状態を対応づけるかどうか。生理心理学では後者ができる。

医学との違いは、脳にメスを入れたり電極を入れたりといった身体を改変する操作を行うことができるかできないか。生理心理学では、生理的事象を"見るだけ" "データを取るだけ"で、「治す」といった医療行為はできない。(これは精神科医と臨床心理士の違いにも通ずるところで、精神科医は投薬・処方ができるのに対し、心理士はあくまでカウンセリングや心理療法といった言葉でしか癒すことはできない。)


多くの人が聞いたことがあるかもしれないα波は、眠くなると出てくる生脳波の一種。脳波を捉えると夢を可視化したり、レム睡眠・ノンレム睡眠の違いや睡眠の質といった睡眠研究に応用できる。それを可能にする器具の1つが脳波計

どこで発生しているか?は曖昧な脳波に対して、脳活動計測では、ある場面で脳のどこが活動しているかがわかる。これと脳波を組み合わせることで、イーロン・マスクが取り組んでいるBMI(Brain Machine Interface:脳にチップを埋め込んで、全身麻痺の人の意思疎通や義手の操作が可能になる技術)に通ずる研究ができたりする。この脳活動計測を可能にする器具の1つが、MRIの簡易版のようなfNIRS

皮膚電気活動計測装置では、不安や緊張の指標であるを捉える。これは嘘発見器ともいわれる、犯罪捜査で使われるポリグラフ検査に応用できたりする。


上記は実際に私が行った口頭説明だ。

最初興味がなさそうだったのに、"おもしろいかも?"と目を輝かせてくれた子が、最後には「俺、ここにきます!」と言ってくれたことが忘れられない。





終わったあと、教授と友人らと計5人、おしゃべりした。はじめはスタバの予定だったけれど、あまりに混んでいたので「自販機でごめんね…」と言いながら教授が缶コーヒーを奢ってくれ、教授のお部屋に着けば「あ、アイスいる?」とキャラメル味のパルムをくれた。


彼らといると、話のテンポがはやくてうまくリアクションできずに聴く専になることもある。

今までならそんなノリは苦手だった。
だけど彼らは私をハブるためにそうしているわけじゃない。誰かのことを常に悪く言うような話を繰り広げているわけでもない。会話の輪の中に上下関係もない。私を"友人"であり、"この会話の参加者"だと思ってくれていることが伝わる。
そんな彼らの輪はいつもあたたかい。

だからただ聴いているだけでも楽しいし、うまく入っていけずに悲観的になることもない。昨日いつのまにか2時間経っていたように、何時間でも一緒にいたいと思える。


心理学という学問は、1879年にやっと「心理学」という形になったばかりで、まだ143年の歴史しかない。哲学から最後に分岐した学問で、哲学との違いは実験を用いて実証をおこなうこと。

この比較的新しい学問が生まれていなければ、私は学問の楽しさを知らずに生きていただろう。心理学部がなければ、私は一緒にいて楽しい彼らと出会えていなかっただろう。



心理学という学問があって、本当によかった。


私がそう思えたように、今後も1人でも多くの学生が心理学と出会って、そう思える日が来ますように。












この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,899件

#学問への愛を語ろう

6,256件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?