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私の人生をネタにしないで


というのが、取材を受けることになった経緯を知って思ったことだった。

出版社から大学の事務室経由で依頼が来て今日、心理学部の在校生代表として取材を受けた。

これまで、noteのエッセイ・無名人インタビュー・就活の面接・カウンセリング、と自分について語る機会を経験した数が人より多かった人間だと思う。だからこそ、自分について語ることに対して苦手意識はあまりなく、就活の面接を通して自分にとって都合の悪いことは嘘にならずにオブラートに包む話し方だって知っていた。


だけど、

顔写真も、大学名も、本名も、ちゃんとした本に掲載される取材は、今まで私が経験したものとは全然違った。

顔や、大学名や、本名を、見知らぬ読者に知られてしまうこと。
それはすなわち、語った内容が”我が大学の心理学部”への印象、もっというと”心理学”という学問自体を決定づけるものになることを意味している。

大学を背負っている、と思えば思うほど「私が今語っていることは知識的・情報的に正しいことなのか」「私が今語っていることは語ってもよいことなのか」が気になって仕方なくて、言葉への責任が重すぎて、うまく話せた気がしなかった。


noteで自分の胸の内をさらけ出せるのは、顔も大学名も本名も出さずに”どこかにいるだれか”の状態で言葉を紡げるからだ。

無名人インタビューで楽に話せたのは、記事に顔も大学名も本名も出ないからだ。決断の背後にある物語をきちんと全部カットせずに聞いて、公開してくれるからだ。(もちろんNGといえば載せない)

就活の面接を乗り切れたのは、何を語ろうとあくまでも私個人への評価で、うまくいかなくても誰にも迷惑をかけずに済むからだ。

カウンセリングで、ある程度自分のつらい経験を語れるのは、相手には守秘義務があって支援が必要でない限り、その人以外に発言内容が漏れる心配がないからだ。”そういう場” だからだ。



「この大学・学部を選んだきっかけは何ですか?いつから心理学部志望だったんですか?」


心理学部生にとって取材の1番初めに聞かれる質問としては、重すぎると思う。


本来この質問に答えるにあたって、私にとって人生で1番きつかった部活崩壊の経験を語ることは不可避だ。

でも、話したくなかった。

だから

「元々興味の幅が広くて、文系学部ならどこでもいいと思っていたのですが、高3に入ってから”言葉えらび”や”言語表現”といったことについて考える機会があって、”心理学なら自分はずっと強い興味を持ち続けられるのではないか”と感じて、高3の6月頃からはずっと、人間科学・心理学系を志望していました。」

と答えた。

うまくかわせた、と思ったのだけれど、「”言葉選び”といったことについて考える機会って具体的にどんなことだったんですか?」と突っ込まれてしまった。

そこで、嘘をつく力も「それはちょっと言えません」と拒否する力も私にはないので、そのまま話してしまった。何を言われたとか、具体的すぎることは伏せて。


その後も「え?就職面接ですか?」というくらい、就職先と研究内容や心理学の関係を深ぼられたりして、

”ああ、言っちゃったな”、と思った。


「1週間・1日の平均的なスケジュール、聞いてもいいですか?時間割とかあれば。学部の標準を知りたいです。」と言われた時は、

(私は、専門が認知系でありながら4回生なってから公認心理師の科目とろうとしてるくらいには学部の標準からかけ離れた存在だからな…)と、苦笑いした。


まあこの辺りまでなら”これもまあ経験かな〜”くらいで耐えられたのだけど、帰り際に事務室の人が来て、言われた言葉にショックを受けた。


「ほんと、心理学部で(私も言っていない私の内定先の企業名)って感じで※メーカー行くって子はなかなかいないからねえ。心理の子は専門職ってなると、院行って試験勉強して資格取って、それでも非常勤で常勤になれたら御の字って感じのキャリアだし、その上で公務員試験の勉強とか受けなきゃなんでね。ちょっとね。」
(※私の内定先はメーカーではなくITです)

「ってことで、学部としても翠さんみたいな形を目指してほしいっていうロールモデルとして、心理の活かし方をアピールしたいなってことでね。
まあまた色々頼むと思うけど、よろしくね。」


それに対して、ライターさんが「大学卒業後の進路の部分については、今の書き方(IT企業)って形でいいんですかね?企業名とかってダメですか?」とか聞いてきて、「企業名は公表しちゃダメだと思うんで」と答えた時にはかなりぐったりした。


ちなみにこれだけ根掘り葉掘り聞かれて答えたのに、報酬は一切なくて、私の記事が載る本の他学部版を1冊もらって終わりだった。


搾取してやろうとか、私に責任を背負わせようとか、彼らにそんな気がないのはわかっている。褒めたつもりであることも。


私の高校・大学での選択の結果や、内定先は企業名で選んだわけではなくやりたいことベースで進んだ結果であったこととか、それらの背景にはちゃんとストーリーがある。

だけどきっと、この人(事務室の人)にとって私は「この時期に就職先が決まっている(しかも良い企業)、心理学部生。」でしかなくて、"私"を求めているわけではなかったのだ。同じ属性を持つ人なら、誰でもよかったのだ。私の内定先も、私の人生も、学部を宣伝するためのコマでしかないのか。そう思ってしまった。

インタビュー内容も、全部載るわけではない。都合よく編集されて切り取られてしまうのだろう。そうしたら本当に、私の人生は"模範生徒"としての物語になって、搾取されて終わってしまう。


…ああ、そうだった。

「記事ができたら翠さんにも一回読んでもらった方がいいと思うんで」とライターの人が言うと、事務室の人は「ああ、そうですか?」と言ったのだ。つまり、その人は今日の発言内容は私に見せることなく本になるつもりでいたのだ。
恐ろしすぎる。



どうか、いい記事になりますように。

と、終わった今は願うことしかできないけれど。

それでも私の記事で、心理学に興味を持ってくれる人が1人でも増えるのなら、心理学を愛する私にとってそれは本望です。





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