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愛は音もなく日常にまぎれこむ


付き合って4年目になる今も、彼と会う私の心はいつだって踊っている。


会いに行く前の日には、顔や髪に普段はしない泥パックだとか、finoだとかのスペシャルケアを施して、他もツルスベにして、ドライヤー前には妹の洗い流さないトリートメントを内緒で使う。

お風呂に入る時間が伸びるから、彼に「明日(彼の名前)に会いに行くためにかわいくなるので、電話するの遅くなります」と自己申告する。「どうかわいくなるの?」と聞かれると、決まって「秘密、でも明日会ったらわかるよ」と答える。

当日には、いつもよりも気合の入ったメイクといつもよりもよく考えたコーディネートを纏って出かける。

彼はそれに気づくこともあれば、気づかない・何も言わないときもある。

だけど、これは自己満足だからいいのだ。

4年経っても、その人のためにかわいくなりたいという心を持ち続けられるほどに愛せる人に出会えたという、その事実だけでしあわせだから。


受験期だった最初の1年を除いて3年間、毎晩電話を続けてきた。

バイトとか、誰かと遊んだとか、充実していた日にはたくさん話す内容があるけれど、デートした日の夜とか、1日中家で課題をやっていた日とか、本当に話すことがない日もある。それでもなんだかんだ話したいことは生まれるし、話すことがなくても何かやりながら通話を繋いだりする。そんな夜を必ず毎日、旅行とか飲み会で他の人と一緒にいて遅くなるとかがない限り、続けてきた。

それが窮屈だという人もいるかもしれないけれど、お互いしゃべるのが好きで、彼は寂しがりやだから、これが無理のない状態なのだと思う。それが私たちを幾度となく繋ぎ止めてきた自覚もある。


彼に会うためにおしゃれをがんばってみることとか、毎晩の電話とか、「ご飯を食べる・カフェ・2人になれる場所へ行くor歩く」という会う日の流れだったり、それが地元か、彼の下宿先か、私の大学がある地かだけの違いであることだったり、変わらないことは多い。

何度同じ場所へ行き、何度同じことをしても、飽きないということが、私と彼の相性を示しているようで、それもまた嬉しい。


***


「(彼の名前)が言っていることが論理的に正しいのはわかるけど、感情は伝わってこないよね。」


友人にさらっと伝えられたその言葉が響いたらしく、そこから彼はがんばって変わっていった。

本人曰く "元に戻っていっただけ" らしいけど、おかげで4月頃が嘘だったかのように、過去1平和で穏やかな日々が続いている。

言葉で感情を伝えることや甘えることが苦手な彼が、愛情を伝えてくれることや、おそろいのジャージ君スタンプを使ってくれるようなことは稀で、そんなことがあると嬉しくて、こっそりスクショを撮ってきた。「好き」と言われたときには嬉しくて、次の日まで「昨日好きって言ってくれて嬉しかったの」と喜んでいた。いつだって私が甘える側で、彼がそれを受け止める側だった。


だけど最近はそんなことをしなくても、私への愛情が、言葉にも態度にも行動にも滲み出ている。


「好き」と伝えたら、「好きって言われるのはたまにがいい」なんて言わずに、「ありがとう」とか「好きだよ」と伝えてくれる。

「一緒に暮らすようになったら」とか、「25くらいで結婚するなら」とか、「ドットとの子ども、絶対絵下手じゃん」とか、本人は無意識らしいけれど、彼が自分の将来のことを考えるときに、そういう言葉はセットで出てきている。

私の祖母が会いたがっている話をしたら、「会いに行こうか?」と言ってくれるし、会ったこともないのに褒めちぎってる話をしたら「良いように言っといてね〜」と言う。「母がいつも彼を褒めている」という話をすると「気に入っていただけてるのなら何よりやわ」と言うし、どこか旅行に行くと、私の父母や妹のことも考えたお土産をくれるし、毎年ハロウィンには私と妹にお菓子をプレゼントしてくれる。

まだ2ヶ月も先なのに、今年は火曜日である私の誕生日をいつ祝うか、どこのフレンチに連れて行くか、プレゼントは何にするかを考えて、私に伝えてくれる。




先日、イレギュラーなタイミングでかかってきた電話で拗ねたまま切ったことがあった。

すると夜の電話は酔っぱらったテンションでくるものだから「どーしたの?」と問うと、「ちょっと喧嘩しちゃったかなって思って、嫌われちゃったかなって思ったら、この方がしゃべりやすそうだったから」と彼は言った。私は別に怒ってもなかったし、改めて「ごめんね」を言い合うほどのことでもなかった中で、彼は気にしてみたんだろうな、と思うと愛おしくて死にそうになった。


いつもいつも、嬉しかった言葉や行動は頭の中で思い出しきれるほどだったのに、最近は嬉しかったことが多すぎて全部思い出せない。

やっと、ここまできたね。


***


彼が一人旅に出た日に、たくさん電話がかかってきていて、3度目くらいの電話でやっと出たら「写真撮ってあげたお姉さんたち、3人で来てたから1人なのが寂しくなっちゃった」と彼は言った。

続けて彼が言った。

さっきさ、おみくじ引いてさ、恋人のところみたらね、「愛しぬくこと」って、書いてあったよ。

神様もわかってるねぇ、ちゃんとおみくじに書いてること守るんだよ?と返した私に、

ドットのこと、ちゃんと愛しぬくね。

と言った。


ずっと行きたいと言っていた留学。
彼は来年、半年間オーストラリアに行くかもしれないらしい。

オーストラリアなら時差ないから、ドットとテレビ電話もできるかなって思ったの。半年だったら1年とかよりマシかなって。留学行ったら1年卒業遅れるから、院行かなくていいなーって思う。


(彼くん)と結婚するのー!、といつもの調子で告げた私に彼は言った。

最近はね、それはわりとそうなるかもなぁって思ってるんだよ。ドットは、俺が辛いときも一緒にいてくれるから。



***


一緒にいて、嬉しいことや楽しいことばかりではない。自分にも恋人がいるというのに、彼氏自慢してる人の投稿にため息をついたことだってあるし、なんでこんなこともわかってくれないの、と思ったことだって数えきれないくらいある。

だけど、この人といたら幸せになれる、という確信は、なぜかわからないけど胸の底にいつもあって、その瞬間が訪れるまで何があろうと彼と一緒にいるんだ、と信じ抜いてきた。


これは嵐の前の静けさかもしれないし、安心や安定をつまらない、と捉えて離れていく日が来るかもしれない(そんなことないと思っているけれど)。


変わらないことは安心や安定と表裏一体であるということのように思うけれど、一方で、変わることも安心につながり、そこに愛が芽吹くこともあるのだと、知る。


私が彼に与えた影響は、読書の楽しみを教えたくらいのことかもしれないけれど。


3年半が経とうとしている今、彼の隣で私は彼からの愛で、優しく包まれている。





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