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食べ物だけではない"モッタイナイ文化"を表す「やっぱり辞めるのは、もったいないよなあ。」

学生時代、国際学会で訪ねたアメリカで現地の日本人大学教授にこう言われた。

「大丈夫。アメリカに来たら、日本のように"モッタイナイ"と思う必要はないから。それが、こっちに来て日本人が初めて知ることだよ。」

TVなどでのアメリカ文化に慣れ親しんでおらず、アメリカ大陸初上陸であった当時の私にとって、それは小さな衝撃だった。え、そうなの?
しかしそれは、国際学会後にアメリカ人の友達と遊んでいる時にも感じた。

彼は日本の私の大学に留学生として来日していた時に知り合った。私がアメリカに行ったときは、彼も確か大学院生だったと思うが、訪米した旧友を自前の車で遊び連れ回してくれた。
初夏に入るにはまだ早い6月くらいのことだったけれど、暑かったのか彼はアメリカで人気のアイスクリーム屋に行こうよと連れて行ってくれた。
お店の前は、確かに人の行列だった。
彼が買ってきてくれたそのアイスは、とにかく甘かった。とにかく、甘かった。甘いものが得意でなかった私は、これがアメリカの"スイーツ"かと思いつつ、アメリカサイズの1カップ分のアイスと葛藤していた。
その葛藤が表情に浮き出ていたのかもしれない。彼は言ってくれた。「無理しなくて良いんだよ。捨てても良いんだよ。」
彼が気遣って言ってくれたことかもしれないが、日本で同じことを言う人がいるだろうか?少なくとも、私の周りにはいなかった。

中学か高校の家庭科の教科書に、中国での食事のマナーは"残すこと"だと書いてあったのを今でも覚えている。綺麗に全てを食べると、"足りない"という意味になるらしい。一方、日本の食事のマナーは出されたものは綺麗に食べるのが美であり、礼儀であるとされている。(なのに、最後の1つを遠慮する姿勢が美とされる文化もある。)
ジャパニーズ"もったいない文化"はどこから来たのだろうか。その問いの答えとして、敗戦が大きく関わっていると述べている書籍があった。戦争の勝者であるアメリカの文化が反対側にあるのも同じだという。

モッタイナイ文化は、食事だけではないと感じたことがあった。
前提として、私は日本の就職活動に疑問を持っている。もっというと、大手安泰思考に疑問を呈している。(今は大手でも安泰ではないのだけれど。)
前の企業は大手だった。それも外資のマンモス会社だった。外資といえど、日本のクライアントを相手にするし、マンモス化したことによる日本思考の社員が増えたことで、基本的には日本の文化で成り立っていたように思う。あるプロジェクトで一緒になった新卒の女の子とランチしている時に、彼女は言った。

「この会社に入社したんだから、辞めるなんてもったいなくないですか」

きっと、動揺を隠せなかったと思う。もったいない、そう思うのか。いやいや、もったいないと思う人は、謙虚なのかもしれない。自分のスキルでは遠い地にあったこの会社に入ったのだからモッタイナイ、と。
入社してから、企業文化に疑問を抱いていた私は心底驚いた。

ただ、そんな私も退職を考える度に悩んだ。この会社を辞めるなんて"モッタイナイ"と明確に思うことはなかったが、今思い返すと、仕事において大事なものを整理できずにいた頃の悩んでいた要素はモッタイナイという一言に集約されたかもしれない。
同じことを、似たような状況で考えたという著者に出会った。

そうだ、自分は一度きりしか当たらないクジを引き当てたのだ。もう二度とこんなクジは引き当てられないだろう。やっぱり辞めるのは、もったいないよなあ。

私は昔から、今ある自分はこれまでの自分の行動が成し遂げた結果だという考えを持っている。それは、失敗も含めてすべてがそうだと考える。人間、何かにすがりたい気持ちはわかる。それが偶像崇拝であったり、偉人の言葉だったり、政治や偉人、セミナーだったり…。でも、自分の身に起きた要因は、基本的に自分にある。運命なんて言葉はあるけれど、運命は頼りに行くものではなくて、自分で引き寄せたいと思って生きている。

誰かのせいにして生きるなんて悲しいじゃない。

コロナ配下で前澤友作氏が「ひとり親100人雇用」と打ち出していたが、Twitterでは荒れていた。前澤氏という名前だけで荒らす人もいるだろうが、「ひとり親のことを理解しているのか」とか「こんな制限では働けない」など、読んでいて目を疑うようなコメントに悲しくなった。
フィードバックやクレームは宝だと考える経営者がいる。確かにそれもそうだ。だが、このTwitterの自由な発言は、捉えようによっては自身のその状況は自分が引き起こしたのではない。だから誰か助けてくれ。と言っているようにも感じられる。
何もしていない人に手を差し伸べる人は、むしろ危険だと思った方が良い。努力して頑張っている人に手を差し伸べる人は沢山いる。そして、それはその人の姿勢が手を差し伸べさせたのかもしれない。

そう思った方が、人生楽しいじゃない。

引用させていただいた書籍のあとがきの締めくくりには、とても大切なことが書かれている。特に、就活で目の前の企業に入ることに専念している学生。仕事に疲れて人生に悩んでいる人。色々な人に向けられた言葉だと思う。気になった方は是非。

気になる言葉、魅力的な言葉を集める共同マガジン「コトバツムギ」を始めました。共同運営者は以前ライティングスクールで一緒に学んだもりやみほさん。月~金までのうち、私は火・金を担当しています。

文章にあった絵を書いてくださる方、募集していたり。していなかったり。