天の川に寄せる想い
その日、ウサギとカメはそごう美術館の「KAGAYA 天空の贈り物展」を訪れていた。星空の写真に囲まれ、その幻想的な世界に引き込まれた二人は、瞬きさえも忘れ、その美しさに心を奪われていた。
作品の中では四季の星座が優雅に瞬き、またある時は、空に浮かぶ月が日本の風景に穏やかに溶け込んでいた。その光景は、どこか夢のような神秘を帯び、まるで物語の一幕のようだった。
「これは北海道のハルニレの木なのね。たった一本の木と月の対話。手の触れることの出来ない、完成された世界のように感じるわ」
「ミクロネシアのジープ島に続く海の道が、月明かりに照らされているわ。まるで空想の世界に迷い込んだようね」
「ところで、この写真には天の川が写っているけど、彦星と織姫がどれだか分かるかな?」と、カメが静かにウサギに問いかけた。
「えーっと、どれかしら? もちろん天の川の両側に離れているのよね…」ウサギは小首をかしげながら、かすかに微笑んだ。
「こと座α星のベガが織姫で、わし座α星のアルタイルが彦星だね」とカメは説明した。
「さらに、はくちょう座α星のデネブを合わせれば夏の大三角形の出来上がりだよ」
「そう言われてみて、分かったわ」ウサギはカメに振り返り、その瞳に星のような輝きを宿した。
「そう言えば、もうすぐ七夕ね。短冊に願いを綴りたいな」ウサギは、目の前の織姫と彦星を見つめながら呟いた。
「でも、その前にお腹が空いたわ。七夕スイーツが食べたいな」ウサギは少し恥ずかしそうにカメを振り返ると、彼の手を取り、地下二階の大食品館へと足を向けた。
「あったわ!」ウサギの顔がほころんだ。
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