ぼく モグラ キツネ 馬
秋の澄んだ空気の中、ウサギとカメは広い草原に座り、ぼんやりと空を見上げていた。どこまでも広がる青い空には、白くふんわりとした雲が、遠く高く、静かに浮かんでいた。
ウサギは、読み終えたばかりの本を胸に抱き、思いにふけっていた。物語の中の「ぼく」が、旅の途中でモグラたちと出会い、少しずつ成長していく姿が、彼女の心に小さな灯りをともしていた。
「私、ハッとしたの。『成功するってどういうことかな?』っていう「ぼく」の問いに、モグラが答えた言葉にね。モグラ、なんて言ったか覚えてる?『そりゃあ、誰かを好きになることだよ』だって」
「『一番の時間の無駄ってなんだと思う?』という「ぼく」の問いに、モグラはこう答えているよね。『自分を誰かと比べることだね』って。その言葉がずっと心に残ってる」
「私ね、『一番の思い違いは、完璧じゃないといけないと思うことだ』っていうモグラの言葉に、すごく心を動かされたの」
「完璧な人なんていないのに、どうして人はそれを追い求めてしまうんだろうね。思い違いだと言われて初めて、完璧じゃなくてもいいんだって気づくんだ」
〝涙が出るのは君が弱いからではない。強い からだ〟馬がいった。
〝一番強かったのはいつ?
弱さをみせることができたとき〟
「ぼく」の問いかけに馬が答えた。
〝君がこの旅で見つけたことってなに?
モグラに聞かれたので「ぼく」は答えた。
「ぼく」は「ぼく」のままでいいってこと〟
「そう。この世界には、きっと、自分にしか出来ないことがあるのよね」二人はもう一度空を見上げた。
原っぱに秋風がそっと吹き抜けていく。
「あんなに暑かった夏が過ぎてホットしているはずなのに、何かもの寂しさを感じるのはなぜなのかしら?」
「暑さから解放されて心が落ち着いたから、いろいろ考えてしまうのかもしれないね」ウサギの問いにカメは静かに答えた。
「それでも、大丈夫。二人なら…」
そんな言葉は必要なかった。ただ、静かに流れる時間の中で、二人の心はそっと重なり合い、同じ思いが確かにそこにあった。
<ぼく モグラ キツネ 馬>
チャーリー・マッケジー著/川村元気・訳/飛鳥新社
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