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【小説】俺は眠っていたらしい

 いつから眠っていたのか憶えていない。
 目を開くとそこには世界が広がっている。今日と言う世界だ。昨日と言う世界の続きだ。視界の半分を覆いつくすシーツ。震え続けるスマートフォンの目覚まし時計。
 シーツはいつから洗っていないのか憶えていない。目覚ましは昨夜にセットしたのを覚えている。

 5回目のスヌーズでようやく起き上がる。好きな曲を目覚ましにセットすると嫌いになると言うがイントロだけで止めてしまうから当てはまらない気がする。
 プロレスラーの入場曲で目覚める朝は戦闘的に聞こえるかもしれないが、やはりイントロだけでは気合も何も入らない。

 どうにか起き上がってトイレに入る。遠くに見える富士山が恥ずかしくて欠伸をしたら涙が流れた。
 昨日が黄色い泡になって渦を巻きながら流れていく。シャワーを浴びると昨日の汗が泡になって流れていく。
 昨日の睡魔が熱湯に溶けていく。
 睡魔が排水管を通って下水道に流れ込む。集合住宅の下に流れ込む各家庭の睡魔や昨日は排水管の中で断末魔の唸りを上げて下水道に落ちていく。
 薄暗い下水道に集められた仄暗い眠りが鼠とゴキブリを撫でながら処理場に這っていく。漂白された昨日と眠りが海に流れていったあとは雲になって、あとは雨として降るだけだ。

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