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【村上春樹 ノルウェイの森 書評】 自己の確立と「生と死」

村上春樹『ノルウェイの森』

この作品では、学生運動が活発化した1969年頃の男子大学生の恋愛が
描かれています。

主人公のワタナベは、過去に大きな心のトラウマがあります。

そのトラウマを忘れるかの様に過ごしていた37歳の時に、
空港のBGMでたまたま聴いたビートルズの『ノルウェイの森』を引き金に
激しい過去の思い出を思い返すことになるのです。

ワタナベは学生時代の友人の直子と再会し、関係を持つようになる一方で
緑という別の女性にも思いを抱くようになります。

精神病棟施設に入った直子に対し、回復を待つと約束したワタナベでしたが、同時に緑に惹かれている自分に戸惑います。

そして、ワタナベが緑を好きになってしまったことを知った直子は最終的に
自殺を選んでしまいます。

二人の間で揺れ動く姿は優柔不断に他なりませんが、
主人公のワタナベが恋愛を通し“他人を傷付けずに生きられない”ことに
気付いていく姿が描かれています。


直子の死

最後には死を選んだ直子ですが、
それなりのメッセージがあった気がします。

ワタナベが緑を好きになってしまったことを知った直子は、
彼がもう世界でひとりぼっちではないことを悟ります。

直子はワタナベが後追い自殺をする心配がなくなり、自殺を決意します。

「あの人のことは私きちんとするから」

と彼女は言い残しましたが、この言葉には上記のような思いとは裏腹に、
それでもワタナベに対する未練が残っている直子の複雑な思いが示されて
いるように感じました。


物語のテーマ「死と性」

この物語のテーマは明確で、「死と性について」描かれています。
また、死は生の一部ということも強調されています。

高校生時代や、ティーンエイジャーのころ、自分は何者なのか?と考えて
自分のアイデンティティを確立しようとします。

その多感な時期に、より心が繊細な直子は死に取り憑かれてしまった
のではないでしょうか。

死と生はまさに紙一重で、精神的に生き残れるか生き残れないかは
その後、自分が出会った人との環境だと思います。

直子は自死をすることで自分の生を完結する方を選んでしまったのですが、ワタナベは女性と寝ることで、多感な時期をうまくやり過ごした様に
思います。

性と生はまさに隣り合わせ、死と生も隣り合わせである学生時代をどの様に生きていくか、そこが上手く描かれている作品だと思います。




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