見出し画像

インターネットと原稿用紙【短編小説】

『「-白紙だったら、これから埋めていけるから。」と…こんな感じかな。写真撮ってアップロード!よし!いっちょ上がり!』
私は小説家を目指す高校2年生。いつもインターネットに自分が紙に直書きした小説を投稿しては、読者の反応を逐一チェックする生活を送っている。
「あ、もうコメント来てる!」

『User-松川美穂 とても考えさせられる内容でした。次回作も期待しています』
『User-ちゃんわだ これは天才かもしれんw』『User-サメポップ 最高過ぎて泣いちゃった』

こういうコメントを見るとニヤけが止まらなくなる。心臓の高鳴る音が聞こえてくる。
「あ、また一件新しいコメント来た」

『User-ガム厶チュウ しょうもなくて草
俺の書いた小説の方が流石に面白いわ
こんなん褒めるファンの頭どうなってるの?』

…は?
いや〜なコメントが来た。
インターネットの淀みみたいな奴だ。
すぐさま返信した。

「User-自分 私のことを貶すのはいいけど、読んでくれている読者の方を貶すのはやめてください。」
『User-ガムムチュウ わかったわ
でもこの小説は駄作よなw』
「User-自分 人の作品貶すのもやめたほうが良いと思いますよ。あなた自身の価値を下げてることと変わりませんからね。」
『User-ガムムチュウ はいはいwやめますよww
まあ、別に俺の作品はお前の作品よりも全然価値高いものだからあんまり気にせんけどw』

こいつは超自信家のようだ。

「User-自分 そんなに言うならあなたの小説も読をませてくださいよ。」
『User-ガムムチュウ はいはいw』
『User-ガムムチュウ (ファイルを送信しました)』

PDFファイルが来た。
あれだけ言ってるんだから本当に面白いんだろうな。いや、面白いわけがないけど。性格悪いやつが書く小説が面白かったら私はショックで執筆をやめるかもしれない。私はガムムチュウへの怒りを抑えつつファイルを開き、画面全体に表示される文字列を黙々と読み進めた。
















…………なんだこれは。
悔しいが、めちゃくちゃ面白い。あの性格のくせして、書いている内容は純愛モノの恋愛小説だった。
まず言葉遣いに惹かれるものがある。主人公の男の繊細な心情の描写も完璧で、思春期特有の異性への興味も描かれている。何よりも最後に明かされる叙述トリックは私が理想としていたものとシナジーを感じた。私がさっき投稿した小説が霞んで見える。

さっき投稿した小説に新たに一件コメントが届いた。

『User-ガムムチュウ な?おもろいやろwこういうことだよ、現実って。小説家になりたいなら、もっと工夫しなw』

私は悔しくて何も言い返せなかった。
次の瞬間には圧倒的な敗北感に襲われた。


あの日から何日か経ち、いつしか執筆へのモチベーションも下がりきっていた。
「もういいかな…」
私は執筆活動をやめ、ペンを置くことにした。
書かれるはずだった白紙の原稿用紙が、ただただ連なっている。



































































「文学サークルか…」
大学生になった私は、もう一度小説を書いてみることにした。私は再びペンを持った。もう一度やり直そう。アンチに圧倒されて逃げた日々も白紙にしよう。

白紙だったら、これから埋めていけるから。



























この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?