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マカロン・カスタネット

スイーツは極上。
癒しとご褒美にはうってつけの存在だ。
味はもちろんだが、見た目も重要。
まずは目で味わいたいと思う。

マカロンをいただいた。
金色のリボンを解くと、
パステルピンクの箱の中で
お行儀よくマカロンが並んでいた。
どこかすまし顔のマカロンたち。
どれから食べようかと迷う私の指先を、
自信たっぷりに待っている。
ころんとした丸い形には愛嬌すらあり、
色違い味違いのアピール力は
私の惑いを加速させるのだった。
なんということだ。


マカロンはカスタネットに似ている。
というか、ほぼカスタネットだ。
マカロンを打ち鳴らしながら行進したら、
ハーメルンの笛吹きみたいに
子供たちがぞろぞろとついてくることだろう。
カラフルで
なんて素敵なカスタネットなのだろう!


カスタネットといえば。
合奏でのカスタネット部隊には、
あまり前向きなイメージがない。
アコーディオンやピアニカ、
ピアノや小太鼓とは明らかに違う立ち位置で、
十把ひとからげ感が丸出しである。

小学校の音楽の時間。
クラスでおこなう合奏の、
アコーディオン奏者を決めるじゃんけんで
負けた女の子が、
カスタネット部隊に入れられて
不貞腐れた顔をしていた。
全身から悔しさオーラを
メラメラと吹き出したまま、
どすんと音を立てて椅子に腰をおろした。
だが、
隣の席に座っていた男の子は、
彼女のそんな気持ちにはおかまいなしで、
それはそれは楽しそうに軽快に
カスタネットを叩きまくっていた。

タカランタカラン
タタンタ タタン
タカランタカラン
タタンタタタンタ

彼女はといえば、
アサリのように口を閉ざしたカスタネットを
持ったまま叩こうともせず、
仏頂面で窓の外を見ていた。

そんな彼女に男の子が話しかけた。

「カスタネットはね、
でっぱりのある赤い方を
下にして持つんだよ」

そして
彼女の中指から小さなゴムの輪っかを外し、
カスタネットの上下を入れ替えて持たせた。
彼女にニコッと笑いかけると、
ふたたび無邪気にカスタネットを叩き始めた。

タカタンタカタン
タタタタタンタン

彼女は呆然として男の子を見た。
周りの音など聴こえていないかのように、
カスタネットを打ち鳴らす男の子を
ただただ見つめていた。
それから自分の手元に視線を落とし、
小さな音でカスタネットを鳴らした。
それに気づいた男の子は、
目を糸のように細くして笑いながら、
彼女の方を向いてカスタネットを
タンタン!と叩いた。

「フラメンコっていうのをやる人はさ、
カスタネットをタカランタカランって
すごい速さで叩くんだよ!
しかも指だけで」

「そうなの?どうやって?」

2人は真剣な眼差しで
フラメンコ調のカスタネットの叩き方を
研究し始めた。
先生の、静かに!という声が
音楽室に響き渡るまで。



この時、誰が予想外できただろうか。
大人になったふたりが
結婚することになるなんて。
(しかも男の子はパーカッショニストになった)
マカロンを見ると
あの日の音楽室でのふたりのことを思い出し、
微笑ましい気持ちになるのだった。
気の強い彼女と、のんびり屋の男の子。
ふたつのリズムをひとつに重ねて、
人生の音楽を作り上げているのだろうか。
今も幸せにマカロンを
(じゃなかった)
愛のカスタネットを、
ふたりで奏でているといいなと思う。
カスタネットも案外悪くないね。


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文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。