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【小説】鼻の中で鳥のヒナを育てた(1151文字)

 最近、どこかから鳥のような声が聞こえてくるのだ。一体どこかから聞こえてくるのだろうか?
 まぁそんなことはどうでもいいやと思いながら、自分はベッドの中に入って眠ってしまった。

 寝ている時のことだった。ものすごく鼻が痛いと思って目を覚ました。
「痛い!」
 そう言うと、次の瞬間には鳥が自分の鼻の中にくちばしを突っ込んでいたのだった。
 一体どうなっているんだ?と思ったら、鼻の中から鳥の声が聞こえてきた。もしや…と思ったら想像通りだった。
 そうなのだ、自分の鼻の中に鳥が住み着いていたのだ。しかもどうやら鼻の中に住み着いているのは鳥のヒナらしい。
 そして親鳥はクチバシを自分の鼻にねじ込んで自分の鼻の中のヒナに餌をやっているのだった。

「くそ! めちゃくちゃ痛いよ!」
 どうすればいいんだと思っていた。ヒナを鼻の中から無理やり引っ張り上げるかとも考えた。
 でも自分はそんなことはしないことにした。なんだかそれじゃヒナが可哀想だからだ。
 そして自分は鼻の中のヒナが巣立つまでの中に住まわせてあげようということにした。
 親鳥もそれが分かったのか、夜中だけでなく普通に朝方にヒナに餌をやりに来るようになった。

 相変わらず鼻はめちゃくちゃ痛いが何て言うか嬉しい痛みだった。自分が鼻を痛めてヒナが元気になるんだったら、それでも良いかなという風に思えるようになっていた。
 鼻の中のヒナも親から餌をもらってどんどん成長していくのだった。なんて言うか、自分の子供が成長したみたいでとても嬉しかった。
 だが皆が大きくなるということは当然別れも近くなっているということだ。自分はどこか寂しさを覚えてしまった。

 別れは突然来た。それは自分が寝ている時のことだった。ものすごい激痛が鼻に走った。
 そして激痛に気付いた次の瞬間にはヒナが鼻の中から巣立って行ってしまったのだった。

「くっ…痛い! はぁ…」
 なんていうか鼻の中からヒナがいなくなってしまったことによって、自分の心にぽっかりと穴が開いてしまった。
 その心に空いた穴というのは鼻の穴以上に大きい穴だった。

「子供が自立するっていうのはこんな感じなのかねぇ…」
 そして自分は人知れず泣いていたのだった。

 次の日、バイトに行く途中に自分のことを見つめる鳥がいた。自分はすぐに分かった、あれは親鳥とヒナだった。
 親鳥とヒナは自分に対して一礼した後どこかに飛び立っていったのだった。自分は何とも言えない複雑な気分になった。
 嬉しいような悲しいようなそんな感じだ った。

「別れの挨拶に来てくれたことはとても嬉しかったよ。元気でな…。 よし、自分も頑張ってバイトに行くぞぉ!」
 これから自然界の中でヒナたちが頑張って生きていくように自分も頑張ってこの現代社会を生きて行こうと思ったのだった。

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