ものすごいシンプルだけど、ものすごい大切な事。「死にたがりの君に贈る物語」
精神の若さとは視野狭窄である事なのかもしれない。
年を重ねて経験を積む事で、その視野は広くなり客観性を帯びてくる。
客観性が生きる上で躓きや失敗を減らすテキストとなる。
しかし果たしてその「視野狭窄」が悪い事なのか?
客観性を持つ事がそんなに良い事なのか?
年を重ね、様々な事を経験して視野が昆虫の如き360度になった気分の
大人にそう問いかけてくる物語。
物語はベストセラー作家、ミマサカリオリの訃報がSNS上で発表されるところから始まる。
大ベストセラーのシリーズ小説「Swallowtails Waltz」を完結せずに。
メディアミックス展開され多くのファンがいる作品で、世間は大騒ぎになり
後追い自殺をしようとするファンまで現れる。
そんな中、コアなファンが集まって小説内の設定を模倣し小説の結末を探る
企画が上がる。
その声に集まったのが10代、20代の男女7人。
なぜ7人なのか。
それは小説「Swallowtails Waltz」の登場人物が7人だから。
選ばれた7人は年齢、性別、背景、小説のキャラクターに近い人物が選定されている。そんな7人が山形県の村落にある廃校で自給自足の共同生活を始める。
小説「Swallowtails Waltz」の登場人物がそうしたように。
ファン達はそれぞれ、自分達の小説「Swallowtails Waltz」のキャラクター像を
持っている。
同じ設定に置かれる事で、時にそのキャラクターに共鳴し、シンクロしていく。
そんな中、小説「Swallowtails Waltz」の続きの原稿が廃校内に置かれていたり、
ファンの中に身分を偽っている人間がいたりと次々に事件がおき
7人の共同生活が崩れていき、その企画の意外な全貌が明らかになっていく。
とても濃密で、かなり演劇的なメタ構造の凝ったストーリー展開で読む者を
惹きつけていく。
しかし最後にこの小説に気付かされる事はとってもシンプルな事なのである。
それは
「好きなものがある人間は強い」
「たった一人の為に書いた物語は強い」
何か一つ好きなものがあるだけで、人は明日を生きられるし
たった一人の受け手がいる事で、人は倒れても再び立ち上がる事が出来る。
視野を広く持ち、社会性を持つ事で忘れてしまう、このとてもシンプルで大事な
事を気付かせてくれる。
魂が傷ついた者同士が共鳴して救いあう、純度の高い関係性。
それは視野狭窄でないと得られない、とても尊いものかもしれない。
経験過多で頭でっかちになってしまった大人にこそ読まれる物語。
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