「おでん」
ゆらゆらと雪が降って来た。街灯に照らされる雪が何とも美しく、一つまた一つとアスファルトに溶けて消える。
季節の訪れの早さに少し驚いていると、遠くの方に屋台が見えた。屋根の煙突と暖簾の隙間から煙が流れていた。
近づくとそこはおでん屋だった。人生で初めておでん屋を見つけた。僕は吸い込まれるように店に入った。
中には額に鉢巻を巻いた白髪の中年男性がいた。
「いらっしゃい」
男性が少しぶっきらぼうに話した。見た感じ昔の職人のぽさが漂っていた。
「どうも」
僕は会釈をすると並べられていた三つの席の右端に座った。僕の目の前ではおでんの具がお湯の中でグツグツと茹でられていた。
「ちくわと大根で」
「あいよ」
男性がそういうと器に大根とちくわを丁寧に入れていく。そして、僕の前においてくれた。
「いただきます」
手を合わせて、口の中に放り込んだ。口の中で大根が崩れた。その瞬間、内部に含まれた出汁が一気に放出された。ああ、美味い。
「いい顔しているね」
男性が悪戯を成功させた子供のように笑った。
「美味くて」
「良かったらいっぱいやるかい?」
「はい!」
おでんの美味さに気分が高揚とした僕は日本酒を受け取った。日本酒とおでん。これがまた絶妙に合うのだ。
「なんか久しぶりだな。飯がうまいって感じたの」
「嬉しい事言ってくれるね。でもそれだけ兄ちゃんが頑張っている証拠でもあるさ」
「どうも」
照れ臭くなり、並々に入れた日本酒を体に流し込んだ。しばらくお世話になり、日をまたぐ前に屋台を後にした。
火照りを感じながら、千鳥足で歩く帰路。店に入る前より心がなった気がした。雪は止んでいた。
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