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名前は聞かないで

あなたお名前は?
ねぇねぇ、なんて名前なの〜?
お姉さん名前教えてよ〜!
仕事中に、こんなことを言われることがある。

私、これがとーってもイヤなのです。
教えません!ぜーーったいに教えません!
私の仕事スタイルは、エプロンに、苗字だけのネームプレート。(ひらがな)

販売員でも、ノルマや成績を競うような仕事なら、名前だけでも覚えて帰ってください!ってなるでしょう。
決して高飛車にいうわけではないけれど、宝くじというものは、買って下さい!買ってください!と必死に言わなくても、趣味で定期購入する人がいるし、店舗から流れる宣伝放送やポスターを見て、買いたい人はフラリと寄って買ってくれる。
一販売員の名前を知ってもらって買っていただく類の代物ではない。と思っている。

個人情報(名前)は知られたくないけど、例外はあって、長いこと通っている常連さんの中で、ほんの数人、互いに苗字を呼び合うお客さんはいる。
私のうっかりミスで下の名前を知られてしまい、以後、◯◯ちゃん!と呼んでくる人が1人。
最初は嫌悪感が少々あったものの、今はもう慣れてしまった。
銀座の宝くじ売り場には、縁起の良い名前の販売員がいる。あえてそれを売りにしているから、堂々と名前を出している。

仕事中に名前を聞かれることがる場面としては、クレーム、イジり、お節介、ひやかし、お客さんに気に入られて聞かれたり…

半年以上前だったかしら…カウンターにつかまってこちらを覗いていた小さな子どもが、◯・◯・◯私の名札を読んだ。文字を覚えたてなのかもしれない。

『ママ、ママ〜!この人、◯◯◯って名前だってー!◯◯◯だよ〜!◯◯◯!』と元気よく、大きな声で連呼した。

ウフッ。字が読めるのが嬉しいのね!カワイイ。可愛い。とは思えなかった了見の狭い私。

しーっ!しーーっ!そんな大きな声で呼ばないで!って言いたいのを、グッと飲み込んだ。
子どもがいなくなってすぐ、私はネームプレートを外した。以後、付けていない。

1人きりで働いているが、時々、本社の人が予告なくやって来る。
もし、ネームプレートを付けていないことを指摘されたら…そのときの言い訳は、ちゃ〜んと用意してある。ニヤリ。

ネームプレートを付ける付けないは、賛否両論あるでしょ〜ね〜。

『お姉さ〜ん、苗字だけでいいから教えてよ〜減るもんじゃないんだしぃ、また買いに来るからさぁ』40代くらいの男性。

しつこいなぁ。私の名前は300円?苛々……

ふっ、と、視線を感じた。
開けっぱなしにしていた釣り銭が入ってる引き出しの中の女性。
あなたのお名前は?津田梅子さんでしたね!(五千円札、津田梅子、ホログラム)梅子が私を見ている気がした。話し相手もいないボックスの中で、声に出さず梅子に話しかける。
『名前なんて、教えるわけないよねぇ。それより、梅子〜、こっち見ないで〜』ちょっと乱暴に引き出しを閉めた。

《最近見た人》
真夏。サングラスをかけている人。
たぶん同世代くらいの女性。

涼しげでフワリとしたリネンのワンピース。日傘をさしていた。細身。バックとアクセサリーからお洒落さが漂う。柔和なパステルチックな感じの女性。

そんな女性が、ゴルゴ13。または、西部警察の渡哲也みたいなサングラスをかけていた。目元だけがスナイパーだった。

あのサングラスって…
「ティアドロップ」というものらしい。涙のしずくを模した大きめなレンズが特徴。
ほぉ〜。
どんなサングラスしていても別にいいんだけどね。姿優しいスナイパー。アンバランスだったなぁ。

立ち上がり、わけのわからない音を発しながら、私は伸びをした。
うぅいーーぃーーっしゅうぅぅぅ…

お次はどんなお客さんが来るかな〜

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