あ、また、これ・・・💦艶楽と研之丞① (短編連載小説)
ドンドン、ドンドン・・・
・・・うーん、誰だい? 大きな音で、戸を叩く奴は?
「師匠、艶楽師匠!・・・ああ、もう、入りますよ」
ガラ、ガラ、ガラリ・・・
「あ、やっぱ、開くじゃねえか、不用心な、相変わらず・・・」
「ふわぁ・・・もう、なんだい、朝っぱらから」
「朝っぱらじゃねえですよ、もう、お天道様は真上、お昼間ですから」
「ああ、ケンさんかい」
「ケンさんかい、じゃないですよ、昨日、本屋と約束したじゃないですか」
「・・・は?・・・何の事だい?」
「黒墨の所為にして、また、サボるお心算ですかい?」
「あああ」
嫌だなあ、もう、耳を塞ぐに限る・・・
「もう十五年、引っ込んだまんまですよ。謡も、三味も辞めちまって」
「もう、弦で指は、はち切れちまうし、声も出なくなっちまったからね」
「それはまあ、残念なことですが・・・それは、それとして」
あ、布団、剥すか。馬鹿役者め。
「今日は、洒落本の清書する、って、約束でしたよね」
「そんな、約束したかねえ?」
「やっと、書物屋に取り付けた話ですから」
「あっ、痛い、足首が・・・」
「足が痛くても、書けますよ。あっしが起こして差し上げますから」
「あ、違った、この、ほら、親指が、ほら、力が入らない・・・」
「誤魔化しても、駄目ですぜ。その葛籠の中、沢山の草稿があるの、知ってるんですからね」
研之丞は、綺麗な顔で、真正面から、睨み付けてきた。
化粧なしだから、見栄を切った時より、凄みは薄いが。
「今夜は十三夜だから、団子、買ってきておくれ」
途端に、研之丞の顔が明るくなった。
「解りました。井筒屋のですね。すぐ、買ってきます」
仕方ないね・・・よいしょ・・・始めるとするかね・・・。
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みとぎやの小説・連載中 艶楽の徒然なる儘 艶楽と研之丞①
東国という国が、まだ、近代化する前の、城下町に住む、
女流作家の御伽屋艶楽。彼女の活動が始まります。
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